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153床の回復期リハビリテーション病棟を備えるイムス板橋リハビリテーション病院。
心疾患の急性期治療や手術のあと、専門の運動療法で心機能の向上と体力・筋力の回復を図る「心臓リハビリテーション」が注目を浴びています。
「心疾患の背後にある動脈硬化や高血圧、糖尿病、虚弱(フレイル)、
廃用症候群などの合併症の改善も欠かせません」と語るのは診療部長・心臓リハビリテーション科部長の遠藤宗幹医師。詳細をうかがいました。
イムス板橋リハビリテーション病院は、心臓リハビリテーション(以下:心臓リハビリ)に力を入れているとうかがいます。どのようなリハビリが行われているのでしょうか?
心臓リハビリは、上皇陛下が心臓バイパス手術をお受けになられたあとに行われたので、名称は多くの方が知っていると思いますが、どんな効果があるのかは知られていません。
心臓は、血液を全身に送り出すポンプの役割ですが、高齢の方は、心筋梗塞や狭心症、心臓弁膜症、心筋症などの心疾患を引き金に、ポンプ機能が徐々に低下する「慢性心不全」を発症する例が少なくありません。
そういう患者さまが心臓手術などで入院すると、ベッドで長期間臥床・安静を保つ必要がでてきます。筋肉量は1日で4%程度減少し、関節を動かさないと4日程度で関節周囲組織の変性が始まり、3週間程度で拘縮を生じるといわれています。すると心臓の治療そのものは一段落しても筋力や体力が低下して虚弱(フレイル)となり、ひいては「廃用症候群」を発症します。
廃用症候群?
個人差は大きいのですが、筋肉が痩せて衰える、関節の動きが悪くなる、骨がもろくなる、血流の流れが悪くなる、急に立ち上がるとふらつく(起立性低血圧)、気分の落ち込み(抑うつ)、認知機能の低下、せん妄、尿が出にくい(神経因性膀胱)などの症状が複合的に表れた状態をいいます。
まずは少しずつ体を動かし、体調を整えていかなければなりません。「筋力増強訓練(筋トレ)」や「日常生活動作訓練」、「歩行訓練」から始めて「運動療法」へ移行していきますが、体を動かせば酸素の必要量が増えて心拍数が上がり、心臓に負担がかかります。どこまでなら心臓が耐えらるのか、負荷量の"さじ加減"が難しいのです。
小さな変化を見逃すことで、急性憎悪となるため、心大血管疾患のリハビリには心臓リハビリチームが結束し、リハビリプログラムの修正を重ねながら対応します。
一般に、脳卒中で手足に麻痺が起こった方や、脊椎(背骨)、脊髄、股関節、膝などの怪我や病気で手術を受けた方も、運動機能回復のためにリハビリを行いますが、それよりずっとデリケートなリハビリなのですね。
私は心臓外科医としてキャリアをスタートさせましたので、10年前の当院開設当初から、脳卒中の後遺症や整形外科的疾患のリハビリと共に、その経験を活かしたオーダーメイドの心臓大血管疾患のリハビリを積極的に導入してきました。「回復期リハビリテーション病棟」を備えた医療機関は全国で1800ほどありますが、心臓リハビリを手掛けているのは10%以下。「元気で長生き」にも繋がるリハビリですから、もっと知られてほしいジャンルです。
運動療法だけでなく、服薬指導、食生活など生活習慣改善のための学習、心の健康のためのカウンセリングなどを並行して行い、再発防止に努め、患者さまの社会復帰を支援します。適切な心臓リハビリを実施すれば、心筋梗塞や狭心症の患者さまの死亡率は26%、再入院のリスクは18%現象。心不全でも再入院が39%減少するというデータもあります。
運動療法について、具体的に教えてください。
心臓リハビリは、廃用の強い方向けの入院と、外来の2タイプがあります。欧米では回復期病院での心臓リハビリは珍しくありませんが、日本で広く知られているのは、外来で行う心臓リハビリです。
入院の場合の第1ステップは、理学療法士の支援でベッドから起き上がり、徐々に体幹と下肢の筋肉の増強を図ります。太腿からつま先へと巡った血液は、下肢の筋肉がギュッと収縮することで、重力に逆らい、心臓へ戻ってきます。『足は第二の心臓』と呼ばれる所以です。院内を200mほど自力で歩けるようになることが大事です。
また、作業療法士も介入し、着替えや入浴、食事、排便などの日常生活動作の改善を、心臓に負担を掛けないように行っていきます。心臓手術後や長期気管内挿管などにより嚥下機能に問題がある方には、言語聴覚士が介入し改善のお手伝いをします。この第一段階だけでおおむね1ヶ月です。
第2ステップは?
外来でも行われている、心臓リハビリの真髄である運動療法です。本格的な有酸素運動へ安全に移行できるよう、「心肺運動負荷試験(CPX)」を行います。運動の負荷量を計測できる自動車エルゴメータを漕ぎながら、酸素の摂取量と二酸化炭素の交換比、心電図、心拍数、血圧、 嫌気性代謝閾値(AT:有酸素運動から無酸素運動に切り替わる運動量のポイント)、最大酸素摂取量(体力)、心臓の状態などを詳細に確認。その方の心機能に適した運動処方(負荷量や心拍数、血圧など)を導き出します。
エルゴメータを適正な負荷量で漕ぐのですね
エルゴメータは、CPXでその方の心身機能に適した運動負荷量で、心臓に超負荷を掛けずに有効な有酸素運動ができます。単調で飽きやすいので、当院ではノルディックウォーキング、エアロビクス、ヨーガ、太極拳、卓球などの有酸素運動メニューも用意しています。退院後やご自宅での適切な運動療法を安全に行うために、腕時計型心拍数計測器の装着を勧めています。
なぜ「有酸素運動」が適しているのでしょうか?
有酸素運動は、筋肉を動かすためのエネルギーを酸素を使って産み出す、比較的軽度で持続的な運動です。エネルギー源となる体内の脂肪や糖を効率よく消費することができ、「メタボリック症候群」の改善効果がきたいできます。
心疾患の多くは、いきなり心臓が悪くなるわけではありません。たとえば心筋梗塞や狭心症は、心臓の筋肉に酸素と栄養を運ぶ「冠動脈」が「動脈硬化」によって詰まり、心臓が酸欠状態になって苦しい発作を起こす病気です。
この動脈硬化の一番の原因は、動物性脂肪の多い偏った食生活です。血中で悪玉コレステロール(LDL)が酸化し、血管壁に塊(プラーク)を形成。血管を硬く狭くし、時には血栓も作り出します。
メタボ検診で指摘される「脂質異常症」ですね。有酸素運動は悪玉コレステロールを減らし、善玉コレステロール(HDL)を増やします。
長年の不健康な生活習慣が、心疾患を招いている、と。
はい。糖代謝ホルモン・インスリンがうまく作用せず、血中に糖が増える「高血糖」や「糖尿病」でも動脈硬化は進み、同時に「高血圧」の誘因になります。「肥満」の方のお腹に溜まった内臓脂肪から、体内の炎症を加速する悪玉物質が放出されます。
動脈硬化とメタボリック症候群、糖尿病などの生活習慣病は、心筋梗塞のほか、心臓内部の弁の開閉がスムーズにいかない「心臓弁膜症」、血管の内壁が裂け大出血を伴うこともある「大動脈解離」、大動脈の内壁が持続的な炎症により膨らんでくる「大動脈留」など、さまざまな心疾患や大血管疾患の温床となります。
つまり心臓リハビリの目的は、心疾患の元凶となっている合併症も一緒に改善することなのですね。
特に心不全を繰り返す方、心臓や大血管の外科手術を受けた方は虚弱や廃用がありますから、入院リハビリをお勧めします。最長3ヶ月の入院で虚弱や廃用を解消し、合併症の治療・改善への道筋をつけ、心臓リハビリが可能な正体となれば運動療法を行い、外来の心臓リハビリにつなげます。
廃用が強すぎると運動療法までできませんが、入院中に心臓リハビリが可能となる患者さまは50%もいて、心臓リハビリ効果が得られます。せっかく良くなっても、退院後、「運動をさぼる」、「栄養バランスの悪いものばかり食べる」「禁煙を守れない」では元の木阿弥。あっという間に心疾患が再発し、再入院です。
当院では独身男性でも糖尿病食や高血圧食などを自炊できるよう、スーパーでの買い物から調理実習まで、行動変容(生活スタイルを自分で変える)ができるように指導します。
運動療法と食事療法は、一生続ける必要があるのですね。
心大血管疾患お患者さまは運動習慣がなく、不健康的な食事ですから、生活スタイルを変えるには強い意志が必要です。ですから、患者さまが途中でくじけてしまわないよう、サポートすることも当院の大事な役目で、医師、看護師、理学療法士、作業療法士、管理栄養士、臨床検査技師、心療内科医など多職種がチームを組み、信頼関係をしっかり築いて支援します。通常、外来の心臓リハビリ継続率は3割と言われていますが、当院は7割以上。おかげで、大学病院を含め遠方の医療機関の心臓血管外科や循環器内科からも紹介をいただいています。
また、補助人工心臓や心臓移植など重症心不全治療に関わった経験も活かし、心臓移植後の特殊な心臓リハビリや合併症のリハビリにも対応しています。
心筋梗塞や狭心症のカテーテル治療であるステント留置術や、心臓弁膜症の経カテーテル大動脈弁置換術(TAVI)では、施術後短期間で自宅へ帰れる方がたくさんいらっしゃますが、やはり心臓リハビリは必要ですか?
そういう方こそ必要です。外科手術を必要としない、低侵襲な血管内治療が発達し、入院は3〜5泊。症状もとりあえず治まる。
カテーテル治療が必要になった時点で、すでに全身の動脈硬化も、心臓のダメージに合わせるように虚弱も進むと認識しましょう。心疾患は日本人の死因の第2位で、脳卒中よりも多いのです。心臓リハビリは心大血管しっかんをもつ高齢者に対する適切なリハビリが、そう遠くない将来、多くのリハビリ病院で行われる日が来ることでしょう。
心疾患の急性期治療を終えたら、主治医に心臓リハビリを手掛ける医療機関を紹介してもらうといいですね。
急性期病棟から自宅退院を勧められた高齢者であっても虚弱がありますから、思い切って入院し、短期集中型に心臓リハビリを行うと、とても効果があり早く元気になりますよ。開院以来、外来は延べ1万件を超え、入院では300件の心大血管疾患のリハビリを行い、CPXは800件程度安全に行えています。外来心臓リハビリ半年の効果は、入院心臓リハビリ1ヶ月と同等です。心大血管疾患のリハビリだけでなく、脳血管疾患の合併症がある患者さまも、自信を持って家庭生活や社会生活に復帰するために、ぜひ一度、経験豊富な党員をおたずねください。
本日はありがとうございました。
マイホスピタルは隔週にIMSグループ内で発行されている広報誌です。IMSグループ病院施設の最新情報や、医療への取り組みをご紹介しています。