2015年 取材
最先端医療のメリットは、「より高い治療効果が期待できる」、「体をほとんど傷つけずに手術できる」、「入院期間を短縮できる」などさまざま。IMSグループでも、最先端の医療技術や医療機器を積極的に導入し、患者さまにとっての治療の選択肢を増やすとともに、より優れた医療を提供することを可能にしています。この記事では、最先端医療を使いこなす医師をご紹介しましょう。先進医療推進機構(AMPO)のウェブサイト『AMPO.tv』からの抜粋です。
手術室で何面も並んだモニターに見入る森本ら医師団。その手は、細いワイヤーのようなものをせっせとたぐっている。モニターに映っているのは、血管の造影写真。そう、血管内手術のワンシーンだ。ワイヤーに見えるのはカテーテルで、その細い影はすでに脳に達しているのがわかる。
従来、脳の手術といえば、頭の骨を開けて、直接、脳にさわる開頭手術をさした。しかし、近年は、脳には触れず、血管の中から治療する脳血管内治療が普及してきている。メスを入れずに細いカテーテルを血管内に入れて治療を行うもので、森本も脳神経外科の専門医として、この最先端医療には積極的に取り組んでいる。
「脳血管内治療の代表疾患は二つあります。一つは、くも膜下出血の原因となる脳動脈瘤、もう一つが、脳につながる首の動脈の狭窄で、これは脳卒中の原因になることが多いものです」
脳動脈瘤というのは血管のコブのことだが、従来は開頭手術をして、洗濯バサミのようなものでコブの根本を挟むクリッピングという方法が主流だった。一方、脳血管内治療では、この脳動脈瘤に対し“塞栓術”という方法が用いられる。カテーテルから細いコイルを送り込み、コブの中を固めてしまうというものである。
ふたたび手術室。モニターの中では、脳動脈瘤に入れられたコイルがクルクルと外枠を形成しつつある。外枠がうまくできたら、中を埋めていく。映像でも、最初は血液がたまって黒く映っていたコブの中が、コイルで埋まるとともに白くなり、やがてほとんど目に見えなくなった。
動脈の狭窄に関しては、“ステント留置”という方法が使われる。ステントとは、金属の小さなパイプのこと。モニターの中では、細く閉じた状態で患部に送り込まれたステントが、カテーテルを手前に引いた途端に外筒が外れ、血管の中でフワッと開くのがわかった。
手術前後の血管の様子を見ると、治療の効果は一目瞭然。術前は切れそうなほど細くくびれていた血管が、太くしっかりとした血管へと変化していた。これで、血流のつまりによる脳梗塞を予防することが可能になる。
血管内にステントを置くことは、慣れてくればそれほど難しい手技ではないという。
「ただ、血管の内壁の汚れを押しつぶすようにして置くことになりますので、その汚れがあまりにもやわらかかったりすると危険なんですね。ですから、手技そのものにも細心の注意を払いますが、メスを使う手術も視野に入れ、安全にできるかどうかを見きわめながら行っています」
ちなみに、森本が院長を務める横浜新都市脳神経外科病院で1年間に行う血管内手術はおよそ150例。脳神経系の施設の中では、症例数として多いほうだという。
血管内手術のカテーテルは、ほとんどの場合、足の付け根の動脈から入れる。
「足から脳というのは、血管がわりと一直線。血管も太いので、カテーテルが上がりやすい経路といえるんです」
体につける傷も、その足の付け根のカテーテルの入口だけですむ。また、局所麻酔のみでよく、大半の手術は1時間以内で終わる。体への侵襲が少ないぶん、術後の経過も有利で、入院期間も5日ほどと短い場合が多い。
そんなメリットもあるので、とくに高齢の患者さんが増える昨今は、体に負担のかからない治療法として注目が高まっているのである。
なお、横浜新都市脳神経外科病院では、“超急性期”の脳卒中への体制も万全だ。専門医が6人在籍し、24時間365日、急患に対応できるスタッフが揃う。
「“ストロークケアユニット(SCU)”というのですが、私どもの病院には厚生労働省が認める脳卒中専門の集中治療室があります。全12床です。この規模で集中治療室をもっているのは、関東でもおそらく数施設しかないと思います」
その超急性期の脳卒中の治療の場面でも、開頭手術とともに、豊富な経験を重ねてきた血管内手術が多用されている。