心房細動は、脈が乱れる病気。放置すると脳梗塞や心不全の誘因となりかねません。
イムス葛飾ハートセンターでは、低侵襲な根治療法「カテーテルアブレーション」に力を入れています。
成功率と安全性を高める工夫も満載。
詳細を循環器内科医長で不整脈のスペシャリスト上野明彦医師にうかがいました。
健常な心臓は、全身に正常な血液を送るポンプとして、1分間に60〜100回、1日におよそ10万回、規則正しく収縮を繰り返しています。心臓上部にある司令塔「洞結節」で作られた電気信号は伝導路(電気の通り道)を通って心房を巡り、「房室結節」へ到達。枝分かれして心室全体へと伝わります。この流れを「刺激伝導系」と呼びます。洞結節が発信する電気信号によってコントロールされ、心房、心室の順に収縮します。この収縮のリズムが「脈拍」です。不整脈とは、このリズムの異常を指します。脈が飛ぶ(期外収縮)、脈が遅くなる(徐脈性不整脈)、脈が速くなる(頻脈性不整脈)の3タイプに分けられます。不整脈とは簡単に言うと、心臓の電気系統のトラブルなのです。
期外収縮は上室性(心房起源)と心室性があります。上室性の多くは経過観察で大丈夫ですが、心房細動に移行することもあります。定期的に健康診断を受けることが大切です。
心室期外収縮は、心筋症や心筋梗塞など心臓の病気が隠れているケースもありますが、ほとんどが様子を見ても良いものです。しかしながら頻度によっては新機能の低下をきたすことが知られており、アブレーションのちりょうの適応となります。
徐脈性不整脈は、脈拍が1分間に50回以下になるもので、洞結節や心室結節がうまく働かなくなるために起こります。人工的に電気信号を送るペースメーカーを鎖骨の下に埋め込み、心臓とリード線で繋ぐ治療が一般的です。
安静時の脈拍が1分間に100回以上になるものを頻脈と言います。頻脈性不整脈とは心房もしくは心室から速い異常な電気信号が出て起こる場合と、異常な伝導路があるために電気がショートする場合があります。この頻脈性不整脈の中でもっとも多いのが心房細動で、国内の推定罹患者数は170万人。他に心房粗動、発作性上室性頻脈、心室頻脈、心室細動、WPW症候群などがみられます。
心房細動の9割は、肺から酸素をたっぷり含んだ血液が心臓に戻って来る血管である「肺静脈」内から異常な電気興奮が生じ発症します。
これは心臓の筋肉の一部が肺静脈に迷入しているため生じることが分かっています。心臓に付着する静脈から発生する例も一部あります。
この肺静脈内より生じた異常興奮が心室に伝わると、心房内の興奮が無秩序になることがあります。そうなると心臓は痙攣し、脈拍は300~600回にも及びます。これが心房細動です。自覚症状のない方もいますがたいがいは動悸、胸の圧迫感、息切れ、胃の不快感などを訴えます。
諸説ありますが、正確な原因はわかっていません。60歳以降急に罹患者が増えますから、加齢による心筋の変化も一因でしょう。高血圧、糖尿病、肥満などメタボリックシンドロームの方に多い傾向があるほか、虚血性心疾患や心筋症を引き金に心機能が低下して心房細動が発症する例も目立ちます。
一番の問題は心房が痙攣して収縮しなくなるため、血流が滞留し、「血の塊(血栓)」を形成しやすくなることです。この血栓は左心房にできることが多く、直径2~3cmに及ぶことも多くあります。この血栓が心臓から脳に流れ、太い脳動脈に詰まると重篤な脳梗塞「心原性脳塞栓症」を発症します。致死率はおよそ10%。社会復帰率は30%程度で、麻痺などの後遺症が残り介助を必要とするケースも多いです。心房細動と診断されたら、ほとんどの場合は血栓化を防ぐ抗凝固薬を服用する必要があります。
また心房細動になると一部の方はひどく脈が速くなります。左心室がポンプとしての役割を果たせなくなり、心不全を生じることもあります。
心房細動は自然治癒が望めません。初めは発症性心房細動(7日以内に治まる)で始まりますが、やがて7日以上続く持続性心房細動となります。発症後5年で30%、10年で60%、20年で90%が慢性化します。
不整脈を止める抗不整脈薬や脈拍をコントロールするお薬(β遮断薬など)など心臓の痙攣を緩和し症状を軽くする飲み薬はありますが、徐々に効き目が低下するため、一時しのぎにしかなりません。
その上、心房細動の発作を繰り返したり、慢性化し長期に渡る場合、心臓の筋肉が徐々に硬くなったり(線維化)、脂肪組織に置き代わるなど、障害される例のあることもわかってきました。将来的に心臓拡大から心臓弁膜症をきたし、心不全を招く恐れがあります。
アブレーションというカテーテル治療があります。アブレーションとは、高周波というエネルギーを使用し、不整脈を起こしうる心臓の筋肉の一部を焼灼する治療です。
心房細動を惹起する異常な心房性期外収縮の多くは肺静脈内に迷入した心房筋から起こります。肺静脈周囲を焼灼し肺静脈ない方の異常な電気が左心房内に伝わらない(電気的肺静脈隔離)ようにします。まず。心房隔穿刺を行い、右心房から左心房にカテーテルを挿入します。肺静脈は通常3~5本あり、そのすべてに対して電気的隔離術を施行します。その他、上大静脈や冠静脈洞内などからの異常な興奮が認められた場合には、これらも焼灼することがあります。また心房細動はしばしば心臓粗動という心房内を電気が旋回する不整脈を合併しますので、心房内に線状焼灼を加えることもあります。
肺静脈隔離治療・透視画像
左前斜位
右前斜位
X線透視画像を確認しながら、医師はカテーテル治療を行う
我々のチームでは、事前のCT撮影で左心房の形状を三次元構築します。また入院前にCTなどで左心房に血栓がないことを確認し、施術に備えます。
足の付け根の静脈や首の静脈からX線透視画像を確認しながらカテーテルを心臓まで挿入し、心臓内に数本の電極カテーテルを留置します。この電極カテーテルから得られる電気の流れなどを確認しながら、アブレーションを行っていきます。実際に記録される電位に加えて、胸部に貼ったパッチと心房内のリングカテーテルから位置情報をとり、モニターに心房を中心とした三次元のカラーマッピング画像を描出します。図は肺静脈隔離術後の左心房の三次元マッピングですが、焼灼を終えた低電位領域は赤、高電位領域は紫で表示され、肺静脈の隔離が改めて確認できるのです。
この三次元マッピングは、心筋が障害された部位があれば合わせて描き出されます。そこから将来、異常な電気信号が発生する可能性があるので、必要に応じて予防的な焼灼を施すことがあります。
患部の焼灼は透視画像を目視しながら行い、本来は異常な電気信号の途絶が確認できれば基本的に成功ですが、我々のチームでは、より精度を高めるため、「三次元マッピング法」も併用しています。
手術時間はおおむね2時間以内には終わりますが、焼灼範囲の多い方に関しましては3時間程度かかることがあります。
このように心房細動アブレーションは、心臓の治療といっても開胸する必要はなく、体に負担の少ないカテーテル治療です。
一般に心房細動のカテーテルアブレーションは、効果も確実で安全性の高い施術です。我々のチームはその中でも、再発率を下げて患者さまに元気に暮らしていただくために可能な限りの手を尽くして治療を行うようにしています。また、血管の損傷や出血による心タンポナーデなどの合併症はゼロではありません。当院は”ハートセンター”の名にかけて心臓を守り抜くことがモットーですので、質の高い心臓の医療を地域の方々に提供する責務があります。
三次元マッピング法の解析画像
左心房を中心に描出されたカラー画像。
肺静脈に迷入した心筋が焼灼され、赤で示されている。
異常な電流が肺静脈に伝わることがなくなっているのがわかる。
心房細動のある方はない方より予後が悪いことは以前より知られています。最近の知見では心房細動をアブレーションで治した方は、心房細動がない方と予後が変わらないというデータがでています。心房細動は当然持続性に移行するより発作性のうちにアブレーションを行った方が治りやすいわけですから、早期にアブレーションを受けることは必要かと考えます。
我々のチームでの心房細動の成績は、発作性で1回目の治療で85%強、複数回で98%程度、持続性の場合では、持続期間によりますが、3年以内であれば複数回行った場合で94%、3年を超えると80%程度と下がります。心房細動アブレーションの成績につきましては、医療機関によって差がありますが、一般的に発作性心房細動の1回目の治療成績が70~80%程度であることを考えると、我々のテームの成績は悪いものではないと考えています。患者さまには詳細を説明の上、早期の施術を推奨しています。
低侵襲とはいえ、患者さまにとって心臓の治療は気持ちの上でストレスになるものです。1回の施術で病気のリスクも可能な限り取り除き、安心して自宅へお帰りいただきたいと思っています。
ー 頼もしいです。不整脈を自覚したら、すぐ専門の医療機関を受診することが大切ですね。ありがとうございました。
イムス葛飾ハートセンター
循環器内科 医長
上野 明彦 医師
日本内科学会認定内科医
日本心血管インターベンション治療学会認定医
日本循環器学会循環器専門医
初期臨床研修指導医