IMSグループ医療法人財団 明理会 春日部中央総合病院 (厚生労働省臨床研修指定病院・日本医療機能評価機構認定病院)

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診療科のご案内消化器科

診療活動

以下のような方は、当科への受診をお勧めします。

1.胸やけ・食事がつかえる感じ・みぞおちの痛み・上腹部痛・吐血・胃がん検診異常、など。

2.下腹部痛・臍の周囲の痛み・下血・腹部膨満・大腸がん検診異常、など。

3.当科で早期胃癌・胃粘膜下腫瘍(SMT)・大腸腺腫・早期大腸癌の精査加療をご希望の方。

上記以外の腹部症状で悩まれている方もいちど受診をお勧めします。

当科では、食道・胃・十二指腸・大腸などの消化管疾患および肝胆膵疾患を対象として、消化器疾患全般の診療にあたっております。また外科治療の対象疾患は当院外科と連携をとり速やかな治療にあたっています。
診断・治療に必要と考えられた場合、できるだけ速やかに内視鏡・CT・腹部エコー・MRCP・血液検査を行い診療に役立てています。

当院消化器科での診療対象となる疾患・状態

当院消化器科で対応可能な主な特殊検査及び治療

  • NBI併用拡大内視鏡を用いた早期胃癌の正確な診断
  • 早期胃癌に対する内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)
  • 胃十二指腸潰瘍などの消化管出血に対する内視鏡的止血治療
  • 超音波内視鏡(EUS)による腫瘍の診断
  • 超音波内視鏡下穿刺吸引法(EUS-FNA)による腫瘍の組織診断
  • 超音波内視鏡ガイドによる種々の穿刺ドレナージ術
  • 大腸腺腫に対する内視鏡的粘膜切除術(EMR)
  • NBI併用拡大内視鏡を用いた早期大腸癌・側方進展型大腸腫瘍(LST)の正確な診断
  • 早期大腸癌およびLSTに対するハイブリッドESDおよびESD

→詳しくは以下の項目をご覧ください。

早期胃癌のESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)

胃癌の年間罹患者数は現在、約12.4万人、胃癌による死亡数は年間約4.5万人です(2019年度)。
ピロリ菌保有率が年々減少していることに相関して減少傾向にありますが、いまだ癌に占める胃癌の割合は男性で第2位、女性では第4位と多い疾患です。
しかし、径が小さく、深さが浅く、リンパ節転移がおこらないうちに発見(診断)すれば、内視鏡切除で完治が得られます。Stage Iaの5年生存率は、99.5%、Stage Ibでは97.6%です。
胃壁は粘膜層・粘膜下層・固有筋層・漿膜下層・漿膜層の5つの層からなります。

癌の浸潤の深さのみからいうと、粘膜内癌がESDの絶対的対象(絶対的適応といいます)となります。しかし、粘膜下層に浸潤していても浸潤の深さが500μmよりも浅い癌がESDの適応となることもあります。他にも適応の基準がありますが詳細は治療方針の決定時にお話ししています。

内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)とは、要約すると、粘膜下層へ薬液を注入して病変を浮き上がらせ、電気メスで病変の周りを切開し粘膜下層を剥がして病変を切除する方法です。病変の切除前にNBI拡大観察と通常白色光観察で、切除範囲を決定し、アルゴンプラズマ凝固(APC)で病変周囲に目印をつけます(マーキング)。

NBI併用拡大内視鏡は通常の約80~100倍までの倍率でかつNBIという特殊光で行う方法で、病変の範囲だけでなく表面の微細な構造や微小な血管まで詳細に観察でき、癌の組織型まで診断することが可能です。

早期胃癌のESDは、通常7泊8日の入院で行っています。

ESDは注意深く行っておりますが、合併症・偶発症が生ずることがあります。

合併症

①後出血(ESD治療後14日以内に生ずる止血・入院を要する出血)(約1~3.5%)

②穿孔(ESDの際に、深切れで生ずる胃壁の穴)(約1.5~3%)
合併症の場合、内視鏡治療(止血術や穿孔閉鎖術)で約96~98%が治癒します。

偶発症
静脈麻酔薬による鎮静時の偶発症(呼吸抑制や血圧低下など)(0.0013%)。
迅速に適切な対応が可能な体制で行っています。

早期胃癌症例

胃角部~前庭部小弯の0-IIc+IIa, tub1(高分化管状腺癌)
ESD後病理診断:LM, Less, 38×28mm, adenocarcinoma(tub1), sm (1300μm) 
(17×10mm), infa, Ly0, v0, pHM0, pVM0, pT1b.

A.

B.

A. 通常白色光観察:
前庭部小弯側:0-IIc+IIa。
一部自然出血している。

B. 非拡大NBI観察:
病変がより認識しやすい。
白線□内のNBI拡大像がC.

C.

D.

C. NBI拡大観察(B.の白□):
病変部と非病変部の境界(Demarcation line)が明瞭に認識できる。

D. 病変周囲マーキング

E.

F.

E. 切開・剥離
病変肛門側から切開剥離を開始した直後。

F. 剥離終了時:口側
固有筋層が観察される。

G.病理標本

G.

EUS-FNA(超音波内視鏡ガイド下穿刺吸引法)

EUS(Endoscopic ultrasonography:超音波内視鏡)は、スコープの先端に超音波装置 を内蔵し胃や十二指腸、大腸などの消化管の中(内腔)から、粘膜の下にある腫瘍 (粘膜下腫瘍:Submucosal tumor = SMTといいます)、消化管内腔の外側にある胆嚢 や胆管・膵臓などの臓器を観察でき、消化管SMT・膵臓や胆嚢の腫瘍・胆嚢結石や 胆管結石のより詳細な診断が可能です。 画像診断検査のみの場合は、入院せずに外来での検査も可能です。通常は鎮静薬 を注射して行うため、検査後は病院で数時間安静にしてから帰宅して頂いています。 疾患によりあるいは「不安だから希望」などの理由により2泊3日の検査入院も可能です。

EUS-FNA [EUS-guided fine needle aspiration (biopsy):EUSガイド下穿刺吸引[生検]法は、まずEUSで病変を観察し、次に細い針(吸引生検針)で病変を穿刺して細胞や組織を採取する方法です。内視鏡観察・CT・NRIなどの画像診断だけではなかなか確定診断がつきにくい消化管のSMTや膵腫瘍の確定診断を行い治療方針の決定に役立てています。
観察のみの場合と同じく鎮静薬を注射して行いますが、観察のみの場合に比べて、食事制限・点滴・検査後の安静が必要となるため、通常は入院で行っています。

またEUS-FNAの応用として消化管内腔から膵臓や胆管や胆嚢も穿刺可能なため、近年では、急性/慢性膵炎による膵仮性嚢胞に対する穿刺・貯留液の排液(ドレナージといいます)や閉塞性黄疸で正常の通り道からのドレナージ(経十二指腸乳頭的胆道ドレナージといいます)や経皮経肝的胆道ドレナージ(PTCDといいます)が困難な場合、EUS-FNAによるドレナージを行う治療が可能になっています。
高齢の患者さんが増加している現状の中、身体的負担が少ないことや身体の外側へチューブを出さなくて済む、などの利点があり、全国的に件数が増加しています。

胃GIST症例

他科撮影の胸部単純CTで胃腫瘤を指摘され当科紹介。造影CTと上部消化管内視鏡で胃噴門部小弯の壁外発育型の胃粘膜下腫瘍(SMT:Submucosal tumor)認め、GIST疑いでEUS-FNA施行。
診断:紡錘型細胞で、c-kit(+), CD34(+), DOG1(+), SMA(-), S-100(-)でありGIST確定。当院で治療。

A.

B.

A. 通常白色光観察:
噴門部小弯やや前壁側:粘膜下腫瘍が認められる。

B. 造影CT所見:
胃噴門部に、内部濃度不均一な壁外発育型の腫瘍あり。

C.

D.

C. EUS所見①:
腫瘍は胃壁外発育型で、同部は肝左葉の近傍に位置していた。

D. EUS所見②:
胃壁外発育部は不均一なエコー輝度を呈していた。

E.

F.

E.初回の穿刺:
不均一なエコー輝度部分を標的として穿刺した。

F.2回目の穿刺:
初回穿刺により、腫瘍内出血が生じていた。

G.穿刺後通常白色光観察:
穿刺点からの出血が
止まっていることを確認した。

G.

大腸腫瘍の内視鏡治療

大腸癌の年間罹患者数は約16万人、大腸癌による死亡数は年間約5.1万人(男性2.7万人、女性2.4万人)です(2018年度)。 臓器別癌死亡者数において大腸癌は男性で第3位、女性では第1位と多い疾患です。
しかし、サイズが小さく、深さが浅く、リンパ節転移がおこらないうちに検診などの大腸内視鏡で発見(診断)すれば、内視鏡的切除で完治が得られます。
癌が粘膜内に限局したStage 0の早期大腸がんの5年生存率は99.8%、癌が固有筋層よりも浅いStage Iでは96.2%ですが、Stage Iの中で内視鏡的切除の適応である粘膜下層浸潤1000μm以下の病変では96.2%以上であると考えられます(2016年)。

大腸内視鏡でみつかる腫瘍の内、最も多いのが大腸腺腫です。大腸腺腫はサイズが大きくなると癌化する事がわかっており、サイズ増大とともに担癌率も増加します。現在では6㎜より大きい大腸腺腫は、内視鏡治療の適応と考えられています(方法については次の項目をご覧ください)。
大腸壁は下図のように、粘膜層・粘膜下層・固有筋・漿膜下層・漿膜層の5つの層からなります。

(JSCCR:大腸癌研究会)

粘膜層から発生した大腸癌がどの層まで及んでいるか(浸潤しているか)は、大腸癌治療を決定するための重要な因子です。

早期大腸癌は一般的に、①腺腫から発生した癌と②de novo癌(臓器固有の正常組織から直接発生する癌)の2つの発生経路があると考えられています。

隆起型の早期大腸癌はほとんどが①であり、ごく早期の大腸癌である腺腫内癌(腺腫の中の一部に癌細胞が含まれる場合)も①に含まれます。
表面陥凹(0-IIc)型の早期大腸癌は②de novo癌の代表的な病変です。
表面平坦型もしくは表面隆起型の側方進展型大腸腫瘍(LST)は垂直方向に比べ側方に発育してサイズが大きくなる特徴をもった腫瘍です。
色調と腫瘍の形状から②やLSTは、①に比べて診断が難しい(発見されにくい)とされていますが、近年では、内視鏡機器の発達と診断学の進歩により、診断される頻度も増えています。
LSTの一部は表面型なのに垂直下方に浸潤(粘膜下層浸潤)してリンパ節転移を起こす頻度が高い、などの特徴も有するハイリスクな腫瘍です。

早期大腸癌やLSTで内視鏡的に悪性度が高いと診断され、粘膜内もしくは粘膜下層1000μmより浅い病変でEMRでの一括切除が困難な病変には、ESDやハイブリッドESD(EMRとESDの両方の特徴を併せ持つ治療法)を行います。

内視鏡的治療の種類

1.ポリペクトミー(Polypectomy)


きのこ型の茎をもったポリープに対して用いる方法。ポリープの茎にスネアという金属製の輪をかけて、高周波電流を流して茎を焼き切ります。(ホット・ポリペクトミー)。
大きさが1~3mmの極微小な隆起性腺腫に対しては、専用の鉗子を用いて通電せずに切除するコールド・フォアセプス・ポリペクトミー(Cold forceps polypectomy: CFP)という方法も行っています。
また大きさが4~5mmの微小な隆起性腺腫に対しては通電せず専用のスネアで切除するコールド・スネア・ポリペクトミー(Cold snare polypectomy: CSP)という方法も行っています。

2.EMR

茎をもたない平たい腫瘍に対して用います。
粘膜下層に生理食塩水などを注射して腫瘍を持ち上げてから、ポリペクトミーと同じように金属ワイヤー(スネア)を使って腫瘍を切り取ります。

3.ESD(基本的には、早期胃癌のESDと同様)


EMRでは一括切除が困難な大きな早期癌やLST(側方進展型大腸腫瘍)の一部に対して用います。 粘膜下層に特殊な液を注射して腫瘍を固有筋層から持ち上げてから電気メスを用いて粘膜下層を剥離していき腫瘍を切り取ります。

4.ハイブリッドESD

病変周囲の粘膜切開後に十分粘膜下層を剥離したうえでスネアリングする手技です。

治療に際して、注意深く行っておりますが、まれに以下のような合併症が生ずることがあります。
①後出血(ESD治療後14日以内に生ずる止血・入院を要する出血)(約2.2~2.8%)
②穿孔(ESDの際に、深切れで生ずる大腸壁の穴)(約1.6~3%)
ハイブリッドESDでは上記よりも合併症の頻度は低いことがわかっています。
内視鏡治療で合併症が生じたら内視鏡治療(止血術や穿孔閉鎖術)を速やかに行います。
合併症が生じた場合でも多くが内視鏡治療(止血術や穿孔閉鎖術)で治癒します。
重篤な合併症が生じた場合に備え、外科とも連携しています。
【参考文献: 大腸ESD/EMRガイドライン. 日本消化器内視鏡学会雑誌 Vol. 56 (4), Apr. 2014
大腸 T1(SM)癌に対する内視鏡的摘除の現況と将来展望.  日本消化器内視鏡学会雑誌Vol. 58 (8), Aug. 2016】

偶発症
静脈麻酔薬での鎮静時の偶発症(呼吸抑制や血圧低下など)(0.0013%)。

当院消化器科勤務で取得可能な専門医の資格

当院は、
日本消化器内視鏡学会 指導連携施設(2020年12月1日~)
日本消化器病学会 関連施設(2021年1月1日~) に認定されました。
当院での消化器科医師としての勤務期間は、消化器内視鏡専門医取得および消化器病専門医取得に必要な要件である、
学会認定施設における消化器内視鏡専門医研修・消化器病専門医研修としてカウントされますので、
専門医取得が可能です。
また、もう1名、専門医が常勤となると各学会とも指導施設の認定が可能となります。
さらに、専門医から指導医への同時申請も可能です。

スタッフ

齋藤 崇

消化器科 部長 齋藤 崇(さいとう たかし)

  • (S63 新潟大学卒)
  • 専門:消化器(消化管、とくに上部消化管)
  • 医学博士
  • 日本内科学会 認定医
  • 日本消化器内視鏡学会 専門医、指導医、支部評議員、本部評議員
  • 日本消化器病学会 専門医、指導医、支部評議員
  • 日本消化管学会 胃腸科専門医、指導医
  • 所属学会(上記以外):日本胃癌学会、日本消化器がん検診学会
齋藤 崇

医師 玄 泰行(げん やすゆき)

  • 日本内科学会 総合内科専門医
  • 日本消化器病学会 消化器病専門医
  • 日本消化器内視鏡学会 消化器内視鏡専門医・指導医

主な論文・学会発表

I. 原著論文(Original articles)

1. Endoscopic and clinicopathological features of intramucosal, histologically mixed-type,low-grade,
well-differentiated gastric tubular adenocarcinoma with the potential for late-onset lymph node metastasis.
Takashi Saitoh, Asako Takamura, Gen Watanabe.
BMC Gastroenterology. volume 18, Article number: 189 (2018).
https://bmcgastroenterol.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12876-018-0919-3

2. Effectiveness of magnifying narrow-band imaging endoscopy for differential diagnosis between the high-risk mixed type
and low-risk simple type of low-grade, well-differentiated gastric tubular adenocarcinoma.
Takashi Saitoh, Asako Takamura, Gen Watanabe, et al.
Gastroenterology Research and Practice. 2016. http://dx.doi.org/10.1155/2016/3028456

Ⅱ. 総説(Editorial) :胃低異型度高分化管状腺癌(LG-tub1)について

Low-grade, well-differentiated gastric tubular adenocarcinoma (LG-tub1):
Why should it be noticed now ?
Takashi Saitoh.
Japanese Journal of Gastroenterology and Hepatology. 2020;V4(1):1-4

【解説】胃低異型度高分化管状腺癌(LG-tub1)とは。

【胃癌の分化度と異型度】

一般型の胃癌は、分化度(differentiation degree)により、乳頭腺癌(pap)、管状腺癌(tub)、低分化腺癌(por)、印環細胞癌(sig)、粘液癌(muc)に分類されます1)。更に管状腺癌は高分化管状腺癌(tub1)と中分化管状腺癌(tub2)に、低分化腺癌は充実型(por1)と非充実型(por2)に亜分類されます1)
分化度どれだけ癌が非癌に類似している構造を呈するかを表し、分化度が低いほど生物学的悪性度は高くなります。それゆえ、構造異型が低いほど生物学的悪性度は高いといえます。
また、一般型胃癌は、分化型癌(tub1, tub2, pap)と未分化型癌(por, sig)にも分けられます(中村ら2)。順にLaurenの腸型とびまん型3)と同義。腸型は構造的特徴を捉えての命名であり、必ず“腸型粘液形質”を意味するものではない事に注意が必要)。この分類は、分化型と未分化型それぞれの進行胃癌の通常白色光内視鏡観察での肉眼型や色調などの特徴的所見を反映し、また分化型と未分化型それぞれの型の浸潤様式(塊状型とびまん型)と生物学的悪性度を反映する分類です。従って胃癌取扱い規約1)における分類および亜分類により示されている高分化管状腺癌(tub1)や中分化管状腺癌(tub2)などの分化型胃癌の分化度(Differentiation degree)は腫瘍の生物学的悪性度を反映し臨床現場に直結するものであり、従来からのHE染色での消化管病理(臨床病理・外科病理とも呼称されます)において基本である、胃癌の形態診断に他なりません(一部は、日本病理学会のホームページから抜粋して引用)。従って胃癌取扱い規約1)における“高分化管状腺癌(tub1)”の“高分化”の意味は“構造異型が高い=非癌の組織構造にとてもよく類似している”という事になります。
更に、胃癌を腺構造異型と細胞異型の観点から見た場合、分化型癌(tub1, tub2, pap)は低異型度 (low-grade;LG)と高異型度 (high-grade; HG)に分けられる事を1992年に渡辺らが初めて報告し、客観的指標(HE染色によるN/C比・核の短軸長など客観的な計測値で表される項目)も含んだ診断基準を示しました4)異型度は、癌の呈する腺構造と癌細胞そのものが、非癌の腺構造と非癌の細胞から、どれだけかけ離れているか、を示します。異型度が高いほど生物学的悪性度は高くなります。

[用語に関する注意①]

しかしながら近年、学会発表や医学雑誌[特に最近の『胃と腸』(第56巻10号2021年)において]、細胞異型と腺構造異型が低い胃腺癌=胃低異型度高分化管状腺癌(LG-tub1)に『高分化腺癌』という語句が用いられていますが、胃癌取扱い規約にはこの用語は記載がなく、現在の切除後の胃癌病変診断は胃癌取扱い規約に則って行われているため、この用語は適切なものとは言えません。 また後述する胃底腺型腺癌は、初回報告の原著で、主細胞類似であるがその細胞異型から癌と診断される新たな疾患群として(当初は邦文では胃底腺型胃癌の名称で)報告されたもの5)で、細胞異型と腺構造異型から診断される病変であり、高度に細胞分化した胃固有腺に類似した癌であるのでその提唱者・著者ら(Yao T, Ueyama H, et al.)が用いる『高分化』は『高度に細胞分化して非癌の胃底腺に類似した細胞異型と線構造異型が低い(Lower cytological atypia and glandular architectural atypia)』という事を意味しております。ゆえに胃癌取扱い規約1)での分類の高分化管状腺癌(tub1)つまり胃癌の腺窩上皮と腺構造を高度に模倣した構造異型を呈する癌=高分化管状腺癌(tub1)の高分化(Well-differentiated)とは意味が異なります。英語にすれば違いが明らかですが同じ日本語で表現されており紛らわしく、加えて胃癌取扱い規約1)では高分化管状腺癌(tub1)は一般型に、胃底腺型腺癌は特殊型に分類されていますので、高分化という用語は胃癌取扱い規約1)に則して高分化管状腺癌(tub1)の診断名に用い、胃底腺型腺癌を論ずるときには『高分化』という用語ではなく『高(度)細胞分化』という用語などを用いるべきである、と考えます。また胃底腺型腺癌の提唱者・著者(Yao T, Ueyama H, et al.)およびピロリ菌未感染胃癌についての学会発表と論文報告での一部の主著者らは、学会発表や医学雑誌(特に『胃と腸』において)、病理組織診断が明らかに胃癌取扱い規約1)での分類の高分化管状腺癌(tub1)であるにもかかわらず“管状”の部分を記載せず胃癌取扱い規約1)に記載がない『高分化腺癌』や『高分化胃腺癌』という用語を用いているケースが多数見受けられますが、医学商業雑誌等での論文ならまだしも、とくに公的な場である学会発表や学会誌への論文発表においては、当然胃癌の診断名は胃癌取扱い規約1)に則した記載でなくてはなりません。もしも胃底腺型腺癌の提唱者・著者(Yao T, Ueyama H, et al.)およびピロリ菌未感染胃癌についての学会発表と論文報告での他の主著者らが、胃癌取扱い規約1)での分類の高分化管状腺癌(tub1)に対して、自らの提唱する『高分化(胃)腺癌』という用語や分類を用いたいのであれば、症例を集積し医学的根拠(Evidence)を積み重ねて、自らの公式の学会発表や公式の学会雑誌発表を行った後に日本胃癌学会の担当委員会に諮り胃癌取扱い規約1)に掲載されてのち、という正式な手続きをとらねばならない、と思われます。

【胃癌の免疫組織化学染色法と診断】

近年の免疫組織化学を用いた染色法(MUC2, CD10, MUC5AC, MUC6による粘液形質診断やH+/K+-ATPase, Pepsinogen-Iによる胃固有腺と腫瘍細胞の類似性についての診断やp53,Ki67染色での腫瘍非腫瘍の鑑別診断は全て、HE染色による形態診断への付加的なものです。例えば胃底腺型腺癌診断の前提にあるのは従来からのHE染色での消化管組織形態診断であり、HE染色で胃癌と診断されて初めて、付加的な方法が癌の性質や由来を解析するのに役立つのです。近年は、ともすれば、HE染色による形態学的病理組織診断が正確ではない或いは曖昧であるのに、即、粘液形質や細胞分化を前面にした診断を行っている学会発表や掲載論文が見受けられるのは実に嘆かわしいことです。

【胃低異型度高分化管状腺癌(LG-tub1)】

前述した渡辺らの報告4)した基準に沿って診断されかつ胃癌取扱い規約1)に定められている用語tub1も用いて診断された癌が胃低異型度高分化管状腺癌(LG-tub1)であり私たちが論文や学会発表で用いています6)~8)
LG-tub1はLow-grade = LGの頭字語(Acronym)と胃癌取扱い規約の高分化管状腺癌(tub1)を合わせた略語です。
胃低異型度高分化管状腺癌の英訳、Low-grade, well-differentiated gastric tubular adenocarcinomaについて述べる際、学会発表や英論文中の冗長な表現となる事を避けるため、私たちは略語LG-tub1を用いました6)~8)
胃癌取り扱い規約1)に基づいて、粘膜内の高分化管状腺癌(tub1)と診断される病変の中には、幽門腺や胃底腺などの胃固有線の形態を模倣する部分と腺窩上皮類似の構造を模倣する部分の両者を有する癌、が存在することは以前から知られています。粘膜内の高分化管状腺癌(tub1)病変には、①粘膜筋板直上の胃内腔側に、ある一定の厚さの非癌の胃固有腺が残存しこの部分に連続したさらに直上(内腔側)に胃固有腺と腺窩上皮の構造を模倣した癌が存在する場合、②粘膜筋板に達する粘膜層全層に置換性に発育した、胃固有腺と腺窩上皮の構造を模倣した癌、があり、それら粘膜内tub1病変中には③非癌の腺窩上皮部分を置換して腺窩上皮内のみに発育する癌も含まれていた、と考えられます。(この③の病変は、後述したラズベリー様の内視鏡的所見を特徴とする腺窩上皮型胃癌9)とは異なりますので注意が必要です。)
また粘液形質の観点からは、LG-tub1病変には、CD10/MUC2/MUC6/MUC5ACの免疫染色で、胃型・胃腸型・腸型・Null型10)の各型を示す病変のいずれもが存在します。
内視鏡的には、LG-tub1病変は通常白色光観察での存在診断が困難な場合があり、(特に胃型粘液形質と胃腸型粘液形質病変は)すでに粘膜下層浸潤とリンパ節転移を来した状態で診断される場合があるため、臨床上からも注意が必要です。ときにNBI遠景~近接観察やNBI拡大観察でも境界の一部が不明瞭である病変も存在し、内視鏡的診断が難しい場合があることも知っておきたいものです6)~8)

以上から、分化型癌では分化度(tub1, tub2, pap)異型度(LG, HG)のあらゆる組み合わせが存在する事になります(例:LG-tub1, HG-tub2>HG-tub1,など)。しかし、通常の高異型度癌は、分化型・未分化型どちらの場合でも、胃癌取扱い規約1)に基づいて、現時点では語頭のHG-はつけずに記載されています(例:0-IIc+IIa, tub1や0-IIc, tub2>tub1など)。

[用語に関する注意②]

前述した胃癌取扱い規約1)の分類や渡辺らの報告した異型度分類とは別に、約10年前九嶋らによって“低異型度分化型胃癌(英論文原著ではlow-grade, differentiated-type gastric cancer)”という用語が提案されました11)。この用語はLG-tub1, LG-tub2, LG-papを一つの範疇にまとめようと考えられたものです。また八尾らは、“低異型度高分化型胃腺癌(low-grade, well-differentiated adenocarcinoma of gastric phenotype[LG-WDA-G)]”という用語を用いて、論文報告を行っていますが、これは胃癌取り扱い規約の分類(分化度)を用いたものではなく、粘液形質で胃型粘液形質を呈する腺癌のみを対象とした報告でした12)これら2つの表現(用語)は胃癌取扱い規約に記載がない用語です。胃癌取扱い規約に記載されている高分化管状腺癌(tub1)を用いて私達が学会発表や論文報告で用いている低異型度高分化管状腺癌(low-grade, well-differentiated gastric tubular adenocarcinoma)5)~7)とは同一の病変群ではないのですが、紛らわしい用語であるため注意が必要です。([用語に関する注意①]も参照してください。)

【LG-tub1、腺窩上皮型胃癌、胃底腺型腺癌、の関係】

A. 胃底腺型腺癌
近年、独立した胃の疾患単位として報告された病変に胃底腺型腺癌がありますが、初回報告の原著では、主細胞類似であるがその細胞異型から癌と診断される新たな疾患群、として当初は邦文では胃底腺型腺癌の名称で報告されたものであり細胞異型と腺構造異型から診断される病変です5)
したがって、高分化管状腺癌tub1、中分化管状腺癌tub2といった、胃癌取り扱い規約内の分化型癌とは異なります。またtub1やtub2病変は深部浸潤してリンパ節転移を来たしますし、組織混在型[とくに分化型(tub1/tub2)と未分化型の組織混在型]は前述したtub1やtub2の組織単純型に比べ悪性度が高い事がよく知られています(多数の文献と学会報告あり、ここでは列挙しません)。しかし、胃底腺型腺癌は診断された時点の粘膜下層浸潤の頻度が高いが(約50~52%13)、14)リンパ節転移及び遠隔転移は殆ど認められない事がわかっており(欧米ではWHO分類のOxyntic gland adenomaと診断されています)生物学的悪性度の点でも高分化管状腺癌(tub1)や中分化管状腺癌tub2とは異なると考えられます。 その後、H+/K+-ATPaseやPepsinogen-Iの免疫染色で主細胞や壁細胞との相同性がみられる腫瘍細胞、MUC6で副細胞(粘液頸細胞)との相同性がみられる腫瘍細胞、などを総称して胃底腺型腺癌として報告され、亜分類として粘液形質が参考にされています。胃底腺型腺癌は胃粘膜の幹細胞である副細胞から上記の細胞群と類似の特性をもって発生した可能性があると推測されています。更に粘膜層の胃底腺類似腫瘍細胞塊部分に連続して腺窩上皮側に腫瘍が認められる場合には胃底腺粘膜型と呼称する事が提案されました(胃と腸 第56巻10号2021年)。
B. 腺窩上皮型胃癌
腺窩上皮型胃癌9)はほぼすべての病変が粘膜内に限局しており転移が殆どなく、やはり分化型癌のtub1やtub2とは生物学的悪性度が異なると考えられます。

[生物学的悪性度と胃癌の分類]

中村2)らの分類である分化型と未分化型(Lauren3)の分類の腸型とびまん型に相当)は、それぞれの型の構造異型の特徴という組織学的側面のみならず生物学的悪性度をも反映しており頻用されています。
臨床的に癌を分類する場合に生物学的悪性度は重要です。
したがって、胃癌取扱い規約のtub1・tub2・pap(分化型癌)の低異型度病変を“低異型度分化型腺癌”と総称した従来の分類を拡大解釈し、“低異型度分化型腺癌”病変群の中に生物学的悪性度が高くはない腺窩上皮型癌と胃底腺型胃癌を含めて「低異型度分化型胃癌」として一つの疾患単位のように扱おう、という近年の提唱は、臨床的に重要な生物学的悪性度という観点からは、適切ではないと考えられます。

【私たちの述べるLG-tub1と『江頭らの胃と腸論文のLG-tub1型』との違い、LG-tub1と超高分化型腺癌の違い】

2010年に江頭らは発表論文15)の中で『LG-tub1型』という単語を用いていますが、原著では『(LG-tub1型は)超高分化型腺癌と称されることもあるが、…』、と『LG-tub1型』は[超高分化型腺癌]である、と解釈される記述をしています。またこの論文には前述した1992年の渡辺らの文献4)は引用されていません。
 従って、胃低異型度高分化管状腺癌と胃の[超高分化型腺癌]とが異なる疾患概念であれば、私たちが示してきたLG-tub1と江頭らが述べた『LG-tub1型』は異なるものという事になります。
 結論から述べますと、胃低異型度高分化管状腺癌と [超高分化型腺癌]とは、同じ病変群ではありません。ということは、私たちがLG-tub1と表現している病変群と江頭らが上記の論文中で述べた『LG-tub1型』という病変は同じ病変群ではない、という事になります。
 これを理解するためには、胃の[超高分化型腺癌]とはどのような病変を指しているのか、知る必要があります。
超高分化型腺癌は1989年に八百坂らが報告した論文16)で初めて用いられ、以後異なる発表者から複数の症例報告がされています(症例数が多いのでここでは文献は列挙しません)。粘液形質に関する病理診断が発展していく中で、2006年にExtremely well-differentiated adenocarcinoma of the stomach (EWDA) としてYao Tらは9症例を報告しました17)。その後、その日本語訳としての胃の[超高分化型腺癌]という用語が本邦での学会発表や論文で時折用いられています。
 しかし、Yao Tらの原著によれば、この[超高分化型腺癌]は、「軽度の核異型を有し、正常胃粘膜または腸上皮化生粘膜に類似した高度分化した新生物上皮だが胃壁への浸潤能力をもつ病変(EWDA is defined as neoplastic lesions composed of highly differentiated neoplastic epithelium which mimics the normal gastric mucosa or intestinal metaplastic mucosa with mild nuclear atypia, but has the ability to invade the gastric wall.)」と定義されており、1992年渡辺らが提唱した「低異型度高分化管状腺癌」の診断基準とは異なるものです。また、前述のYao Tらの論文に引用されている“完全型腸上皮化生粘膜に酷似した(=非常に高度に腸上皮化生粘膜様に分化した)癌 “を”extremely well-differentiated intestinal-type adenocarcinomas of the stomach which mimic complete-type intestinal metaplasia“として.初めて報告18)したのは、前述した分化型癌の異型度分類4)を報告した渡辺らのグループですが)、渡辺らは、Yao Tの提唱する[超高分化型腺癌]という概念をに同意していないようです。加えてYaoTらの原著の全例が粘膜下層以深までの浸潤癌です。更に、「粘膜内に限局する類似の病変は悪性と診断困難のため(この論文の検討対象から除外した(Although we encountered some similar lesions restricted to the mucosa, these were excluded because of difficulty in diagnosing them as malignant.)と記述されており、原著では[超高分化型腺癌]には粘膜内癌は含まれません。ところが近年の学会発表や論文の一部では、原著の[超高分化型腺癌]が拡大解釈され、粘膜内癌にも[超高分化型腺癌]という用語が用いられ、一部の医学雑誌では《(私たちが述べている)「胃低異型度高分化管状腺癌」は[超高分化型腺癌]とほぼ同義である》という解説がされ、用語の正しくない解釈や病変診断の混乱を招いているようです。
 では、粘膜内癌にも[超高分化型腺癌]という用語が適用されるように変化したのは何故でしょうか。
 同年(2006年)にKusima RらはGastric cancerのReviewで、“Prediffuse type”として粘膜内癌にもこの[超高分化型腺癌]を適用すると記載しています19)粘膜内癌にも適用するという考察の端緒となったのは、石黒の論文20)です。Kushima らは石黒の論文から、”胃型粘液形質の腺窩上皮型癌が粘膜内癌からびまん型の浸潤癌に進展する可能性“を引用して述べている事と思われます。
 まとめると、胃粘膜内の[超高分化型腺癌]は、胃粘膜内癌の中で[「胃型粘液形質を呈し軽度の核異型を有し正常胃粘膜類似の高度分化した癌であり、胃壁への浸潤能力をもつ腺窩上皮型と乳頭腺癌」を総称した癌] という事になります。私たちが論文や学会発表で述べているLG-tub1は、渡辺らの分類1)を用いて診断された、胃粘膜内の「胃低異型度高分化管状腺癌」ですから、上述した胃粘膜内の[超高分化型腺癌]とは同じ病変ではない、という事になります。また2010年に『江頭らが“胃と腸”論文内で述べた(LG-tub1型は)超高分化型腺癌と称されることもあるが、…』、は誤った解釈であり、1992年に渡辺らの提唱したHE染色でのN/C比・核の短軸長などの客観的指標も用いた診断基準に基づいた「胃の低異型度高分化管状腺癌」の英語、Low-grade, well-differentiated gastric tubular adenocarcinomaの略語であるLG-tub1(=私たちが論文中で「胃低異型度高分化管状腺癌(LG-tub1)」として報告している病変群)と、江頭らの論文の『LG-tub1(型)』は、同一病変群ではないことを主張します。

【ピロリ菌除菌時代におけるLG-tub1、胃底腺型胃癌、腺窩上皮型胃癌。】

現在、ピロリ菌陰性胃癌が注目されてきています15)
胃底腺型胃癌は胃癌取扱い規約において特殊型に分類され、その約50~52%に粘膜下層浸潤がみられますが、リンパ節転移はまれです13),14)
腺窩上皮型癌は胃癌取扱い規約には含まれておらず、本邦では癌の診断ですが欧米では腺腫と診断されます16)。腺窩上皮型胃癌には転移は認められません。
上記、2つのタイプの胃癌は生物学的悪性度が低いといえます。加えて、ピロリ菌陰性胃癌は全胃癌のうちの0.66~3.0%と低頻度です15)

いっぽう、前述したようにLG-tub1は内視鏡的な存在診断が困難な場合がありとくに組織混在型LG-tub1では診断された時点で既に粘膜下層浸潤とリンパ節転移をきたしている病変がみられることがわかっており6)、7)、臨床的にも注意が必要です。
ピロリ菌除菌は今も進行中であり22)、ピロリ除菌成功後胃癌(いわゆるピロリ除菌後胃癌)の治療が注目されています22)~24)。ピロリ除菌後胃癌の頻度は、ピロリ未感染胃癌の頻度の約4倍~10倍と報告されています8)、24)。加えて、LG-tub1病変はピロリ菌除菌後胃癌の約38%であり、さらに早期胃癌の約34%がLG-tub1病変でありLG-tub1病変の約57%がピロリ菌陰性(自然除菌後または除菌後)の胃粘膜に生じていることも報告されています7)。以上から、LG-tub1病変の診断と治療の意義は高まってきています。
近年のNBI併用拡大内視鏡などのIEEの発展により、LG-tub1病変の診断率も向上し、組織純粋型LG-tub1とそれに比して悪性度がより高い組織混在型LG-tub1(M-LG-tub1)との鑑別診断が88.9%の正診率で可能になりました6)、7)
M-LG-tub1の中でも、高異型度tub2(HG-tub2)成分を混じる病変は、他のLG-tub1病変に比して発赤調がつよく0-IIc型が多く胃型粘液形質が多いことを私たちは報告しており7)、とくに胃型粘液形質の場合にはサイズの増大とともに病変内の低異型度部分が高異型度に変化して更に未分化成分が混じるように(例:Gastric-mucin-phenotype LG-tub1>HG-tub2 with por2)なる可能性がある事を示唆しています7)
ピロリ除菌後胃癌は0-IIc型で発赤調が多い報告は他にもみられ25)、この報告は前述した胃型粘液形質のLG-tub1>HG-tub2病変との相同性を示していると考えられます。この事は、ピロリ菌除菌後に発生したLG-tub1が診断困難のうちにサイズを増し、(とくに胃型粘液形質の)LG-tub1がHG-tub2を混じてさらには未分化成分を混じて、粘膜下層浸潤しリンパ節転移に至る、という推論の傍証になり得ると考えられます。加えて、ピロリ菌除菌後胃癌の約72%が分化型癌であり、そのうち約22%が組織混在型であることも報告されており26)、ピロリ除菌後に発生した胃型粘液形質の組織混在型LG-tub1のサイズが増大し、一部がLG-tub1から高異型度tub1(HG-tub1)へ変化し更に高異型度tub2(HG-tub2)に変化しLG-tub1>HG-tub2となった胃型粘液形質の病変が未分化成分を混じて軟膜下層へ浸潤しリンパ節転移をきたす、という前述した推論の更なる傍証となっていると考えられます。
LG-tub1病変は、内視鏡的に通常白色光観察での存在診断が困難な場合があり、(特に胃型粘液形質病変は)すでに粘膜下層浸潤とリンパ節転移を来した状態で診断される場合があるため、臨床上からも注意が必要です。ときにNBI遠景~近接観察やNBI拡大観察でも境界の一部が不明瞭である病変も存在し(特に胃型粘液形質と胃腸型粘液形質の病変)、内視鏡的診断が難しい場合がある事も知っておきたいものです。

文献:

  • 1)日本胃癌学会編.胃癌取扱い規約 第15版.金原出版 2017.
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    https://www.jddw.jp/jddw2019/abstracts/index.php/detail/1308.
  • 26)鈴木晴久、阿部清一郎、小田一郎、胃ESD後・Helicobacter pylori除菌後異時性SM以深胃癌の特徴.第1回Helicobacter pylori 未感染と菌後時代の胃癌発見に役立つ内視鏡診断の構築研究会(日本消化器内視鏡学会付置研究会)、第3部4、2020/5/24. https://www.jges.net/conference/2020-26624.
Ⅲ. 学会発表 (筆頭演者 齋藤 崇)

1. 第98回日本消化器内視鏡学会総会 2019/11/22 神戸
P-175 胃低異型度高分化管状腺癌の純粋型と組織混合型との鑑別におけるNBI併用拡大内視鏡所見 Limited-to-four-pattern (LFP) signシステムを用いた診断能の検証

2. 第91回日本胃癌学会総会 2019/3/1 沼津(静岡)
Workshop 10(胃型腫瘍の臨床病理と分子異常)
WS10-5 胃型粘液形質の胃低異型度高分化管状腺癌の臨床病理学的検討

3. 第91回日本消化器内視鏡学会総会 2016/5/12 東京
Core Session 1 (IEE上部:特別シンポジウム)
CS 1-10 胃低異型度高分化管状腺癌における径2cm以下のESD標準適応群と適応拡大群の比較検討

4. 第88回日本胃癌学会総会 2016/3/18 大分
P-61-3 胃低異型度高分化管状腺癌の組織混合型と組織単純型の鑑別診断におけるNBI併用拡大内視鏡の有効性の検討

5. 第89回日本消化器内視鏡学会総会 2015/5/19 名古屋
O-005-4 胃低異型度高分化管状腺癌のNBI併用拡大内視鏡(NBI-ME)所見の検討

診療実績

内視鏡センター診療実績(治療内視鏡を含む)

上部 下部 超音波内視鏡
内視鏡検査 内視鏡的粘膜下層剥離術
(ESD)
内視鏡検査 内視鏡的粘膜切除術
(EMR)
内視鏡的粘膜下層剥離術
(ESD)
超音波内視鏡
ガイド下穿刺吸引生検法
(EUS-FNA)
令和
3年度
1,685件 15件 1002件 257件 6件 5件
令和
2年度
1,582件 9件 901件 193件 3件 3件
平成
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