医療公開講座レポート
【院内】鼠径ヘルニア(脱腸)について
~その「膨らみ」ご相談ください!~
概要
- 開催日:2024年7月30日
- 会場:春日部中央総合病院 食堂
- 講師:春日部中央総合病院 外科 小林 波留花
講座内容 要約
鼠径ヘルニアとは?
・ 一般に「脱腸」とも呼ばれる、足の付け根(鼠径部)が膨らむ病気
・ おなかの壁の弱くなった部分から脂肪や小腸などお腹の中の臓器が飛び出してくる
・ 年間約15万人が手術を受けていると言われている
・ 男性:女性=4~6:1 と比較的男性に多い
なぜヘルニアになるのか?
- ・ 足の付け根にある「鼠径管」という部分の壁が加齢により弱くなるため
- ・ 男性は胎児の頃に睾丸が「鼠径管」を通って移動するため、女性より鼠径ヘルニアになりやすい
- ・ 弱くなる部分は 〇「筋膜」や「腱膜」であり×「筋肉」ではない
= 筋トレなどで予防することはできない! - ・ 腹圧がかかりやすいとなりやすい。重いものをよくもつ、便秘でいきむ機会が多い、喘息で頻繁にせき込む、など
鼠径ヘルニアの症状は?診断するには?
- ・ 鼠径部がぽこっと膨らむようになる
- ・ 初期には、押したり、仰向けに寝たりすると引っ込むことが特徴
- ・ 痛みを伴うこともある
- ・ 上記の典型的な症状があり、診察時に膨らみが確認できれば「鼠径ヘルニア」と診断する
- ・ 必要であればCTで実際にヘルニアを確認する
治療法
主な検査方法
- ・ 手術のみ! → 薬では治らない
- ・ 自然治癒はしない! → 放置すると大きくなっていく場合が多い
- ・ 鼠径ヘルニア用のバンドやベルトでは治らない! → むしろ悪化する場合がある
手術 ~前方アプローチ法と腹腔鏡手術の違い~
・ 手術方式は2通りあり、どちらも「メッシュ」と呼ばれる人工物でヘルニアの穴をふさぐ
痛み | 手術時間 | 費用 | 麻酔 | その他 | |
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前方アプローチ | ややあり | 1時間 | 5~10万円 | 局所麻酔でも可 | ・神経疼痛を起こしやすい |
腹腔鏡 | 少ない | 1.5時間 | 10~20万円 | 全身麻酔のみ | ・腹部の術後の方は難しい ・両側同時に手術可能 |
① 前方アプローチ法
鼠径部を3~5㎝切開して直視下に修復する「鼠径部切開法」
② 腹腔鏡手術
腹腔鏡を用いて小さい創1~3か所で行う「腹腔鏡下修復術」
例:TAPP法 …腹膜内から鼠径ヘルニアの穴を確認し、その周りの腹膜を切開・剥離し、穴をメッシュで閉鎖し、腹膜を閉鎖する方法
実際の治療の流れ
前日 | 手術日 | 翌日 | 2∼3日後 | 1週間後 | 1か月後 |
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入院 夜まで食事可 |
絶飲食 ベッド上安静 |
診察で問題がなければ食事開始 | 退院 シャワー開始 |
湯舟可 | 激しい運動含め生活の制限なし |
・ 術後1カ月程度は激しい運動は控えていただく
・ 合併症として「漿液腫(しょうえきしゅ:手術した場所に水がたまりしこりになってしまう)」「再発」「神経疼痛」「メッシュ感染」などがあり得る
手術をするかどうかの判断に迷ったら?
① 手術が必要
- ・ ヘルニア内に腸管が出ている場合、腸がはまり戻らなくなってしまう「嵌頓(かんとん)」という状態になる得る
- ・ 腸が嵌頓してしまうと、腸管壊死、腸閉塞などに至り、緊急手術が必要となる場合がある
② 経過観察が可能
- ・ 小さいヘルニアでは腸管が出ていることはほとんどない
→ 『見た目が気になる』『痛みがある』などの理由がなければ手術する必要はない
足の付け根の膨らみが気になる場合は「外科」への受診を!!
参加者の声
- •女性の医師だったので聞きやすかった(50代・女性)