医療公開講座レポート
【院内】よくわかる血液のお話~血の病って何?~
概要
- 開催日:2024年9月30日
- 会場:春日部中央総合病院 食堂
- 講師:春日部中央総合病院 血液内科 岡村 隆光 医師
講座内容 要約
血液って何?
細胞の構造と役割
細胞 = 生物を構成する最小の生命単位であり、人間の体は約60兆個の細胞から成り立つ
主要構造
- 〇 ゴルジ装置: タンパク質を包装して送り出す場所
- 〇 ミトコンドリア: エネルギー源の合成場所(発電所)
- 〇 リソソーム: ゴミ(異物、不要物)の処理場所(焼却炉)
- 〇 小胞体: 物質の輸送、貯蔵の場所
- 〇 リボソーム: タンパク質の合成場所
- 〇 核: 細胞の中心的な部分
血液の成分
血液 = 「血しょう」(55%)と「血球」(45%)で構成
- 〇 血しょう: 水、電解質、栄養素(糖質、脂質など)、ホルモン、タンパク質(アルブミン、グロブリンなど)が含まれている。
- 〇 血球: 骨髄にある造血細胞で生成され、全身に供給される。
赤血球、白血球(顆粒球、単球、リンパ球)、血小板が含まれている。
※血液が赤い理由は、血球成分の90%以上を占める赤血球が赤色をしているため。
- ◦赤血球:酸素を運ぶ
- ◦血小板:血管が損傷した際に出血を止める
- ◦白血球:・体を病原体やがん細胞から守る
・いくつかの種類があり、それぞれ異なる役割を果たす(単球、リンパ球、好酸球、好塩基球、好中球)
血の病って何?
血液検査の重要性
- 〇 血液検査で異常を調べる方法:
→ 健康診断での採血
→ 病院での採血
→ 献血による検査 - 〇 血液検査の目的:
→ 健康状態の確認と異常の早期発見
血液内科で診る主な病気・状態
- 〇 血球減少(貧血、白血球減少、血小板減少)
- 〇 血球増加(白血球増加、赤血球増加、血小板増加)
- 〇 異常血球の出現
- 〇 蛋白異常(高γグロブリン血症、M蛋白など)
- 〇 凝固系異常
- 〇 出血症状
- 〇 リンパ節腫大
- 〇 脾臓腫大(脾腫など)
- 〇 骨関連症状(骨痛や骨病変→多発性骨髄腫)
- 〇 発熱(不明熱)
多種多様な血液の異常や病気(血の病)
1. 血球が減少する病気
〇 血球減少
- → 赤血球が減少:貧血の原因になる。
- → 白血球が減少:免疫力の低下による感染症のリスクが増加。
- → 血小板が減少:出血傾向が強まる。
- o 鉄欠乏性貧血
- o 悪性貧血
- o 再生不良性貧血
- o 特発性血小板減少性紫斑病
- o 骨髄異形成症候群
〇 貧血の症状
→ 顔色不良、つかれやすい(容易に疲労感を覚える)、息切れ、頭痛、めまい、失神発作、耳鳴り、動悸、狭心症、心不全など
〇 貧血の原因
- o 栄養不足:鉄、ビタミンB12、葉酸などの不足(鉄欠乏性貧血、ビタミンB12欠乏性貧血、葉酸欠乏性貧血)
- o 造血細胞の減少: 再生不良性貧血、赤芽球癆、白血病などの造血器腫瘍
- o 無効造血: 骨髄異形成症候群など、造血細胞の異常により血球は作られるが途中で細胞死を起こす
- o 消失量の増大: 出血、血球破壊、溶血など
- o 遺伝性の貧血: サラセミア、遺伝性球状赤血球症など
●鉄欠乏性貧血
= 最も頻度の高い貧血で、若年から中年の女性に多い
→ 症状:労作時息切れ、倦怠感、舌炎、嚥下障害、スプーン爪、異味症(氷を好んだり、土を食べる)
→ 原因:
- o 赤血球の損失: 消化管出血、過多月経など
- o 鉄の需要増加: 成長期や妊娠
- o 鉄の摂取量不足: 胃切除、食生活の問題など
- o 生理的影響: 鉄の欠乏により赤血球生成が低下
→ 治療
- o 鉄剤投与(経口、経静脈的投与)
- o 原因の除去(婦人科検診、消化管精査)
- o 栄養指導ど
- o 定期的に受診を指導
●巨赤芽球性貧血
- o ビタミンB12欠乏、もしくは葉酸欠乏によりDNA合成障害が生じ、無効造血をきたす貧血
- o 貧血症状(息切れ、容易に疲労感を覚えるなど)に加えて、舌炎、しびれ、精神症状などが現れる。
- o ビタミンB12欠乏は自己免疫が関与する胃粘膜萎縮による悪性貧血や胃切除による貧血がある。
- o 胃がんなどの胃全摘後の患者に起こりやすい。
→ 治療
- o ビタミンB12補充:筋肉注射もしくは経口投与
- o 葉酸投与
- o 定期的な観察が必要
2. 血球が増加する病気
o 真性多血症
o 本態性血小板血症
3. 悪性新生物(がん)
- o 悪性リンパ腫
- o 急性骨髄性白血病
- o 急性リンパ芽球性白血病
- o 慢性骨髄性白血病
- o 多発性骨髄腫
- o 慢性リンパ性白血病
●慢性骨髄性白血病(CML)
- o 原因: 造血幹細胞のBCR-ABL遺伝子異常による血液がん。
- o 症状: 顆粒球系細胞および血小板が増加し、しばしば脾腫を引き起こす。
- o 進行: 慢性期から移行期を経て急性転化に至り死亡する。
- o 発症率: 年齢とともに増加し、特に高齢者に多い。
- o 割合: 成人白血病の約15%、小児白血病の約3%を占める。
●フィラデルフィア染色体 (Ph染色体)
- o 慢性骨髄性白血病 (CML) の患者に見られる特異な染色体異常。。
- o 染色体22番と9番の間で転座が起こることにより形成される。
- o この異常はBCR-ABL融合遺伝子を生成し、これがCMLの原因となる。
●慢性骨髄性白血病 (CML) のチロシンキナーゼ阻害剤による治療
- o 治療法: チロシンキナーゼ阻害剤を使用して、Ablタンパク質のチロシンキナーゼ活性を抑制。
- o メカニズム: チロシンのリン酸化を阻害し、シグナル伝達を抑制することで、白血病細胞の増殖を抑える。
- o 関与する経路: Ras, Grb2, Raf, MAPK, STAT5などのシグナル伝達経路を阻害。
4. 血液が止まりにくくなる病気
o 血友病
o フォンウィルブランド病
血液の病気にならないために …なったらどうする?
血液専門医数と埼玉県の病院
- → 血液専門医は153人。東京都は853人。
- → 埼玉県は以下の病院がある。
〇 大学病院
- ・埼玉医科大学
- ・防衛医科大学
- ・自治医科大学さいたま医療センター
- ・獨協医科大学埼玉医療センター
〇 埼玉県立がんセンター
- ・さいたま赤十字病院、深谷赤十字病院、小川赤十字病院
- ・三愛会総合病院
- ・上尾中央総合病院、彩の国東大宮メディカルセンター
- ・新座志木中央総合病院、TMG朝霞医療センター
- ・さいたま市民医療センター、市立病院(さいたま市、春日部市)
- ・済生会加須病院など
血液専門医数と埼玉県の病院
結論:予防は困難!!
- → 血液疾患の予防は難しいとされている
- → 早期発見と適切な治療が重要
- → 定期検診を受け、医師による検査結果の評価が必要
- → 生活習慣病や筋力低下の予防
- → 日常的に健康維持の意識を持つことが重要
血液の病気にかかったらどうするか?
→ 〇 適切な診断と治療:血液内科を受診し、かかりつけ医と連携して治療を進める。
→ 〇 病気の理解:病気や治療、予後について落ち着いて説明を受け、正しい情報を理解する。
→ 〇 悪性疾患の場合:白血病などの場合、冷静に現状を理解し、何ができるか、何が重要かを考えることが大切。
参加者の声
- ・ 血液の病気について、おおまかにわかりました。予防等で参考になりました。(70代・男性)
- ・ いままでで、一番いい先生でうれしく思いました。血液内科を受診したいです。よろしくお願い致します。(70代・女性)
- ・ 今回の様な公開講座を、又、お願いしたいと思う。(70代・女性)
- ・ お話がとてもわかりやすく、楽しくてあっという間に時間が過ぎました。ぜひ第二弾、第三弾…と血液のおはなしシリーズを続けていただきたいです。(50代・女性)
- ・ 数々の四方山話を織り交ぜて下さり、楽しく拝聴させていただきました。質問があったのですが、時間切れとなり残念です。分かり易いお話ありがとうございました。(50代・女性)
- ・ とてもわかり易く楽しい講演でした。次回を楽しみにしています。(60代・男性)
- ・ 役立ちました。(70代・女性)