医療公開講座レポート
【院外】ロコモティブシンドロームについて~健康寿命を延ばそう~
概要
- 開催日:2024年11月28日
- 会場:ララガーデン春日部 コミュニティールーム2F
- 講師:春日部中央総合病院 整形外科 片山 一雄 医師
講座内容 要約
ロコモティブシンドロームとは?
定義
ロコモティブシンドローム(運動器症候群)とは、運動器(骨、関節、筋肉など)の機能が低下することで、移動能力が失われ、要介護や寝たきりのリスクが高まる状態を指す。
要因
- 1. バランス能力の低下: 転倒しやすくなる。
- 2. 筋力低下(サルコペニア): 特に下肢の筋肉(大殿筋、大腿四頭筋、下腿三頭筋)が衰える。
- 3. 運動器疾患: ロコモ三大疾である患骨粗鬆症、変形性膝関節症、腰部脊柱管狭窄症やその他の病気が進行することで症状が悪化する。
主な症状
- 1. 歩行速度の低下
- 2. 膝や腰の痛み
- 3. 筋力とバランスの低下でつまずきやすく、骨折のリスクが増大。
健康寿命とロコモの関係
- 健康寿命とは、介護なしで自立して生活できる期間。
- 日本人の平均寿命(男性80.21歳、女性86.61歳)と健康寿命には差(約9〜12年)があり、この期間にロコモが大きく影響。
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症状と進行
1.初期症状
- o 歩幅や歩行速度の低下
- o 膝や腰の痛み
2.進行
- o 筋力やバランスの低下で転倒や骨折を招く
- o 生活範囲が縮小し、閉じこもりがちになる
3.末期
- o 要介護や寝たきりに至る可能性
主な疾患の治療方法
- 1. 運動療法: 筋力と可動域を高めるための適切な運動。
- 2. 薬物療法: 鎮痛剤や骨粗鬆症の治療薬(ビタミンD製剤、抗RANKL抗体など)。
- 3. 外科的治療(必要な場合): 骨折や重症化した疾患に対する手術。。
脊椎圧迫骨折の治療法
- ①保存的療法
- o 安静: コルセットやギプスを用いて安静を保つ。
- o 薬物療法: 鎮痛薬や骨粗鬆症治療薬を使用。
- o リスク: 長期間の安静が筋力低下や認知機能の低下を引き起こす場合がある。
- ②外科的療法
- o 手術: 骨移植や金属製のネジ・棒による固定。
- o 新しい低侵襲手術:
バルーンカイフォプラスティ(BKP):
1. 椎体内に細い経路を作り、風船を挿入して膨らませる。
2. 空いた空間に骨セメントを充填して固定。
大腿骨近位部骨折の治療法
- ①保存的療法(軽度の亀裂骨折時)
- o 安静を保つが、骨のずれが小さい場合には限定的な歩行が可能な場合もある。
- ②外科的療法(主に高齢者)
- o 手術による固定(ネジやプレート)。
- o 骨折部位の整復後、リハビリを行い、生活機能を回復。
変形性膝関節症の治療法
- ①保存的療法
- o 運動療法: 筋力を維持・向上させるための運動(例: 太ももの筋力トレーニングやストレッチ)。適度なウォーキングや水中歩行が推奨される。
- o 薬物療法:
1. 消炎鎮痛薬(NSAIDs): 痛みや炎症を抑える。
2. ヒアルロン酸注射: 関節の滑りを良くし、痛みを軽減。
3. ステロイド注射(重度の炎症時): 強い効果があるが、副作用に注意。 - o 装具療法: サポーターや足底板を使用して膝への負担を軽減。
- ②外科的療法
- o 関節鏡視下手術: 軽度〜中程度の症状に適応。軟骨の破片を除去し、関節の動きを改善。
- o 高位脛骨骨切り術: O脚などの変形を矯正し、膝への負担を分散。骨がつくまでに時間がかかるため、若年層向け。
- o 人工膝関節置換術: 重度の症状に適応。痛んだ関節を人工関節に置き換える。耐用年数は15〜20年で、再手術が必要になる場合も。
- ③再生医療
- o PRP療法(多血小板血漿)や幹細胞治療が注目されており、軟骨の再生を促進する可能性がある。
腰部脊柱管狭窄症の治療法
- ①保存的療法
- o 薬物療法:
1. 消炎鎮痛薬: 痛みや炎症を抑える。
2. 血流改善薬: 神経組織への血流を増やし、症状を軽減。 - o 神経ブロック療法: 局所麻酔薬やステロイドを神経周辺に注入し、痛みを緩和。
- o 装具療法: コルセットなどを使用して腰を保護し、負担を軽減。
- o 運動療法: 筋力を維持し、柔軟性を高めるための運動やストレッチ。
- ②外科的療法
- o 除圧術: 骨や靭帯を取り除き、神経の圧迫を軽減。
- o 固定術: 脊椎の不安定さを改善するために金属製の器具で固定。
- o 低侵襲手術: 小さな切開で行う手術(例: 内視鏡手術)で、回復が早い。
予防と対策
•運動習慣の重要性
- o 下肢の筋力を維持するスクワットや片足立ちの運動。
- o 柔軟性を高める体操やストレッチ。
•適切な栄養
- o 骨と筋肉の健康を保つために、カルシウムやビタミンD、ビタミンKの摂取を推奨。
•生活習慣の改善
- o 日常生活にプラス10分の運動を取り入れる。
- o 歩幅を広げて速く歩く、階段を使うなどの工夫。
まとめ
- o ロコモティブシンドローム(ロコモ)とは、運動器の衰えが原因で移動機能が低下し、悪化すると要介護や寝たきりになる状態である
- o ロコモは健康寿命を短くする原因の一つである。
- o ロコモの三大要因は、バランス能力の低下、筋力低下、運動器疾患の悪化である。
- o ロコモの三大原因運動器疾患は、骨粗鬆症・変形性膝関節症・腰部脊柱管狭窄症で、いずれも痛みを伴う。
- o 痛みの放置は、痛みの慢性化と原因疾患を悪化させる。
- o 痛みの治療の二本柱は運動療法と薬物治療である。
参加者の声
- ・私自身の骨折という状況がバランス能力の低下から来ているという事が解り納得いたしました。(70代・女性)
- ・やや説明が速すぎる感じがしました。(80代・男性))
- ・直接先生のお話を聞かせて頂けて良かったです。(70代・女性)