膀胱や子宮、子宮摘除後の腟断端、小腸や直腸など骨盤内の臓器が腟に向かって落ちてくるのが骨盤臓器脱です。落ちてきた臓器によって膀胱瘤、子宮脱、膣断端脱、小腸瘤、直腸瘤などと呼ばれます。
更年期以降の女性に多く、出産を経験した女性の約50%が何らかの骨盤臓器脱を経験すると言われており、珍しい病気ではなく、80歳までに10人に1人は手術を受けていると報告されています。
骨盤臓器脱は生命に危険が及ぶわけではなく、ただ「出ている」だけですが、日常生活に大きな影響を及ぼし、生活の質を著しく低下させます。羞恥心や年齢を理由に受診をためらう患者様が多いと言われいますが、治せる病気です。是非受診してみましょう。
骨盤臓器脱は、膀胱瘤、子宮脱、小腸瘤、直腸瘤、膣断端脱の総称であり、下垂する臓器によりそれぞれの病名があります。
骨盤の底を支える靭帯や筋肉などが弱くなり、支えを失った骨盤臓器が重力によって下垂し、臓器脱が起こります。
ぺッサリー(膣内リング)挿入、サポーター(特殊下着)などにより陰部からの脱出を圧迫して防ぎます。ただし、治るわけではないので、あくあで対症療法です。
主に3つの方法があります。
➀Native Tissue Repair(NTR):自分の弱くなった組織などを形成補修して治す手術です。人工物を用いないというメリットはありますが、再発率が40%と高いデメリットがあります。
②経膣メッシュ手術(TVM)
③腹腔鏡下仙骨膣固定術(LSS)・ロボット支援下仙骨膣固定術(RASC/RSC)
②③はメッシュと言われる医療用の補強シートを用いますが、再発率が3%と低いというメリットがあります。
当院では腹腔鏡下仙骨膣固定術(LSC)を行って参りましたが、現在はロボット支援下仙骨膣固定(RASC・RSC)術(2020年保険的適応)に移行しております。
※表は横にスクロールします
NTR | TVM | LSC | RASC/RSC | |
---|---|---|---|---|
再発率 | 40% | 3% | ||
手術時間 | 短い | 長い | 短い | |
出血量 | 多い | 少ない | 非常に少ない | |
術後の痛み | 傷・膣の痛み | 傷・膣・臀部・股関節の痛み | 傷の痛み | |
術後性交渉への 影響の可能性 |
あり | ほぼない | ||
メッシュ露出の 可能性 |
なし | 少ないがあり | ほぼなし |
再発率の高いNTRを改善しようとTVMの治療法が始まり、2005年に日本でも保険適応となり、広く行われてきましたが、メッシュ露出などの合併症が欧米で問題となり禁止となり、以前より開腹手術で行われていた仙骨膣固定術が侵襲性の低い腹腔鏡で行われるようになり、2016年にLSCが保険適応となり、さらに2020年RASC/RSCが保険適応となりました。 (① → ② → ③と移り変わっています。)