CVT・シャント・フットケア

当院におけるシャント管理

シャントとは血液透析患者が透析治療を受け続けるために必要不可欠なものであり、そのため「血液透析患者の命綱」とも言われています。シャントが狭窄すると、脱血不良による透析効率の低下や止血不良などの問題が発生します。また、狭窄を放置しておくと完全に閉塞する危険があり、シャントを作り直す場合もあります。シャントを長期間使用するためには、閉塞や狭窄の早期発見と治療が有効となります。当院では臨床工学技士によるシャントエコー検査を実施し、有意な狭窄が認められた場合、シャント造影・シャントPTAを行います。シャントPTAは、短時間で治療ができるため、シャントの作り直しに比べ身体面の負担が少ない手術です。フォローとしてシャントPTAの施行後1週間以内と3ヶ月後にシャントエコーを行い、経過を観察していきます。

シャントエコー検査

シャントトラブルの早期発見と穿刺技術の向上を目的として臨床工学技士によるシャントエコーを実施いたしております。

エコー検査装置

高画質の超音波機器で、シャント血管の狭窄・閉塞の早期発見だけではなく、血流量や血流パターンを解析することで患者さまのシャント管理に有用しております。

エコー検査の様子です。穿刺前に10~20分程度、ベッドサイドで行うことができます。

当院ではシャントエコー検査を行った患者さまに関して、シャントマップ(下図)を作成しております。シャントマップは腕の写真を撮影し、穿刺が可能な場所、狭窄部をエコーの写真と一緒に作成して管理をしております。

シャントPTA(経皮的血管形成術)

透析患者さまにとって大事なシャントに起こるトラブル【シャントの狭窄・閉塞】に対して、これまではシャントの作り直しをしてきましたが、当院でシャントPTAを行うことができるようになりました。シャントエコー検査や血管造影検査で血管の状態を確認して有意な狭窄が認められた場合、PTA治療を行います。シャントPTAとはシャント血管の狭くなったり詰まったりした部分に、バルーンカテーテルという細い管を挿入し、バルーンを膨らませることによって狭窄部を拡張する治療方法です。現在使用しているシャントを活かすことができ侵襲が少なく短時間で行えるため、シャントの作り直しに比べて患者さまのご負担を軽減できます。

造影画像

シャント再建手術

度重なるシャントの閉塞やPTA対象外の強度な閉塞に対して、当院ではシャント再建手術を行っております。

血管診療技師(CVT)の紹介

当院には、2020年5月現在、3人の血管診療技師(CVT)が在籍しています。
2017年10月に、臨床検査技師・理学療法士から各1人がCVTを取得、2019年9月には、新たに看護師1人がCVTを取得し、計3人となりました(全国では、2020年1月現在、1,425人)。

血管診療技師(CVT)とは

動脈硬化や下肢静脈瘤、糖尿病壊疽、エコノミークラス症候群などに代表される血管疾患の診療に対して専門知識と実技技術を有する医療従事者に与えられる専門資格です。「日本血管外科学会」「日本脈管学会」「日本静脈学会」「日本動脈硬化学会」の4学会で構成する「血管診療技師認定機構」が認定する資格であり、認定試験に合格した後も5年ごとに資格の更新が必要となっています。

CVTの業務は、血管超音波検査やSPP検査などに代表される非侵襲的検査を行ないます。また、医師の治療の介助にコメディカルとして関わります。現代の日本社会は高齢化や生活習慣病などの増加に伴い、血管疾患も年々増える傾向にあります。増えつづける血管疾患を効率的かつ正確な評価を行うため、CVT の必要性が高まってきています。

当院では今後もCVTの育成に努めるとともに、医師、治療に関わるスタッフとCVTが協力をして、患者さまお一人おひとりに最適な血管検査・治療をご提供いたします。

資格取得者挨拶

2023年資格取得者

臨床工学科・臨床工学技士 新井賢太郎
私は先輩の臨床工学技士から透析患者さんのシャントエコー検査を教わり、血液透析では命綱といわれている患者さんのシャント状態の管理に携わっています。また、透析患者さんは下肢の血流が悪くなりやすく、下肢のSPP検査や造影検査、治療にも携わってきました。シャントや下肢など様々なものに関わっているうちにそれぞれについてさらによく知りたいと思い、CVT取得を目指しました。今後は知識の向上と手技の修練を積み、CVT取得のサポートも行っていきたいです。部署としてCVT取得者を増やしていくことで、シャントトラブルや下肢疾患の早期発見・治療に貢献できればと思います。

2017年資格取得者

リハビリテーション科・理学療法士 田中成周
私がCVT取得を目指したのは、当院の血管外科医である内村智生医師と出会い、全国でまだあまり普及していない閉塞性動脈硬化症のリハビリに関わったことがきっかけです。 閉塞性動脈硬化症におけるリハビリの重要性を内村医師に教えて頂くうち、「より知識を深めたい」と思ったため、CVTの資格取得を決心しました。理学療法士での資格取得者は全国で11人(2018年6月現在)とリハビリの重要性に反してまだまだ少ないのが現状です。今後は、資格取得だけで満足せず、更なる知識の向上を図り、またその知識を患者さまに提供してリハビリの重要性を広めて行けたらと思います。
検査科・臨床検査技師 山本治美
臨床検査技師として長年エコー等の検査業務に携わる中で、高齢化や生活習慣病の増加に伴う動脈硬化等の脈管疾患の患者さまを多く見るようになりました。より良い医療を提供する上で、このような疾患を早期に発見し、その詳細を正確に医師に伝えることが臨床検査技師の重要な役目であると思い、自らのスキルアップのためにもこの資格取得を決意しました。 今後もこの資格を生かし、患者さまのために正確かつ安心な検査に努めてまいります。

フットケアについて

人工透析とフットケア

近年、透析患者の高齢化や糖尿病による腎不全患者の増加に伴い、ASO(重症閉塞性動脈硬化症)を合併する患者は増加傾向にあります。ASOとは末梢動脈閉塞性疾患(PAD)とも呼ばれる血管の動脈硬化により血流が滞る病気です。動脈硬化とは血管内膜にコレステロールなどの塊ができて血流が滞ることで、酸素や栄養が行き渡らず、酷い場合には細胞が壊死します。透析患者さんの場合、血管にカルシウムが沈着する石灰化が起こることもあります。動脈硬化は全身の血管で起こるものですが、透析患者さんの場合は足に多くみられます。長期に亘る透析や糖尿病をもつ透析患者さまに多い足のASOを予防するため、SPP(皮膚組織還流圧)の測定をしています。SPPの測定は、ASOの重症度を評価する際に使用されています。

SPP(皮膚組織還流圧)検査ってなに?

SPP(皮膚組織還流圧)検査とは、レーザーを用いて毛細血管の血流を測定する検査です。検査方法は専用のカフを巻いて、血圧を測るような操作で血流を確認したい部位の加圧を行い、一旦血流を遮断してから徐々にカフ圧を減少させて、血液が流れはじめる圧を測定します。この再び血流が出現する時の圧をSPPとしており、皮膚レベルの微小循環の指標、つまり毛細血管に血流がどの程度あるのかを調べます。この圧が40mmHgを下回る場合は虚血が疑われます。透析を受けている方は血管石灰化のために、足首などの血圧が正しく測定できないことがあります。SPP測定は、皮膚表面の毛細血管の流れを確認する検査であり、下肢閉塞性動脈硬化症の重症度を評価できます。

また、超音波血流計も併用し、足の大きな動脈である足背動脈の血流を観察することで、重症下肢虚血の早期発見に努めております。
当院では足のトラブルを早期発見するために月に2回、透析中にSPP検査と超音波血流検査を行っております。

当院における検査・治療の流れ

当院では月2回、透析中に簡易検査としてSPP検査と超音波血流検査を行なっております。また定期的な足の観察を行うことにより傷の有無などを調べます。下肢切断のリスクをはらむ傷があり、尚且つSPP測定の結果で血流不良が疑われる場合には血流改善治療を開始していきます。透析中に末梢血管拡張薬プロスタグランジン製剤の点滴を行うことで下肢の血流改善を促す薬剤治療のほか、透析と併用してLDL吸着療法や光線療法によるASOに対する治療を行うことができます。

LDL吸着療法

動脈硬化の原因となるLDLコレステロール(悪玉コレステロール)を血液中から取り除き、血管を広げ血液の流れを改善する治療法です。

光線療法(フィラピー®)

遠赤外治療装置の使用により血流改善や抗炎症作用が期待されています。下肢の血流改善だけでなく、シャントトラブルにも有効です。