呼吸器外科

呼吸器外科とは

肺、縦隔(左右の肺の間にある心臓周囲)、胸壁などの病気やけがに対する診断や手術を行うのが、私たちの役割です。
対象となる疾患には、原発性肺癌・転移性肺腫瘍(他臓器悪性腫瘍からの肺転移病変)・縦隔腫瘍(左右の肺の間にある心臓/大血管/食道周囲にできる腫瘍)などの胸部の腫瘍、自然気胸(肺からの空気洩れ)や巨大気腫性嚢胞(肺表面に風船のような嚢胞ができて健常肺を圧迫する病気)などの嚢胞性疾患、胸壁腫瘍、胸膜腫瘍などが含まれます。

手術のアプローチ

呼吸器外科の手術は従来より大きく胸壁を切開(開胸)して直視下に行っていましたが、ビデオ内視鏡システムの開発により胸腔鏡(胸の中を見る内視鏡)を用いた手術が多く行われるようになりました。胸腔鏡を用いた手術では、創が小さく、術後疼痛が軽減するなど低侵襲で早期退院・社会復帰が期待できるメリットがあります。一方、小さな創で行うため、病気によっては胸腔鏡でやりきれない場合もあり、不慮の出血時にも迅速な対応がとりにくく、触診が困難なため病変が見えない場合は切除が困難なこともあります。当院では、胸腔鏡手術も積極的に行っています。

肺切除術

肺は「葉」という袋から構成されており、右は上・中・下葉の3葉、左は上・下葉2葉に分葉しています。また、それぞれの「葉」が気管支の分岐からさらに「区域」に分けられ、右は10区域(上3、中2、下3)、左は8区域(上4、下4)から成っています。肺には右心室から静脈血を送ってくる肺動脈と酸素化を済ませた血液を左心房へ還流する肺静脈があり、気管支に沿ってリンパの流れがあります。

肺切除の方法は切除範囲によって大まかに分類され、比較的太い肺動脈や肺静脈、気管支を剥離・露出して各々の切断を要する肺全摘除術や肺葉切除術(葉の単位で切除)、区域切除術(葉より小さい区域の単位で切除)と解剖に配慮せずに病変を含む周囲肺を切除する肺部分切除術があります。

代表的疾患の治療

肺癌

肺癌での標準手術は、肺葉切除とリンパ節郭清(腫瘍部位により決められた範囲のリンパ節をことごとく一塊に切除)です。しかし、高齢患者さまや他疾患を伴う患者さまでは耐術能低下が危惧されるため、区域切除や肺部分切除といった縮小手術を行う場合もあります。一方、近年では小型肺癌に対し、肺葉切除が可能な身体状況であるにもかかわらず、積極的に縮小手術を行って肺機能を温存しようとする試みがなされています。手術での対応が困難な進行癌や手術の結果進行が確認された患者さまには化学療法や放射線療法による治療をご相談の上で行っています。

転移性肺腫瘍や良性肺腫瘍

転移性肺腫瘍や良性肺腫瘍では、その大きさと葉の中での部位にもよりますが、部分切除術が基本となります。肺の気管支や血管は、心臓側の肺門というところから肺の末梢へ広がる構造を持つため、腫瘍が葉の中心や肺門寄りに存在する場合や大きい場合は区域切除術や葉切除術が必要となります。転移性肺腫瘍では、状況に応じて、原発巣(転移元)の担当医師による術後補助療法が必要になります。

縦隔腫瘍

縦隔腫瘍では、胸腔鏡下に腫瘍摘出術を行います。ただし、大きな場合や周囲臓器への浸潤が疑われる場合は開胸手術となります。前縦隔と呼ばれる心臓前面の腫瘍では、胸骨切開を要することもあります。

気胸や巨大肺嚢胞

気胸や巨大肺嚢胞では、肺表面にある嚢胞を含めた肺部分切除を行います。耐術能に問題がある患者様では、胸腔内に自己血液や薬剤を注入する胸膜癒着術や気管支鏡下にシリコン製の栓などを詰める気管支充填術などを行います。

患者さまへ

内科や開業医の先生方からの紹介で受診される患者さまがほとんどですが、咳・痰・胸背部不快感などの症状があり精査を希望される患者さまや人間ドックや検診で”胸部異常陰影要精査”の指示を受けられた方も、遠慮なくご相談ください。

また、手術に関する相談はいつでも承ります。手術は、胸腔鏡を用いた確定診断や低侵襲手術から、局所進行肺癌に対する拡大手術を含む集学的治療まで幅広く行っています。標準治療を基本としていますが、患者さまご本人およびご家族とのお話し合いの上で、患者さまの身体的・社会的状況を考慮した個々の患者さまにとって最適な治療を行うことを考えております。なお、当院での対応が難しいケースではご希望を入れながら迅速に転院先をご紹介いたします。


医師紹介

部長
池田 豊秀

所属学会・資格 呼吸器外科学会認定登録医
外科専門医
がん治療認定医
気管支鏡専門医
東京女子医科大学非常勤講師