心臓カテーテル治療・薬物療法など
トータルで患者さまを診療

心臓疾患は、がんに次いで日本人の死因の第2位です。その内訳は心不全41%、急性心筋梗塞など虚血性心疾患が33%※。
明理会中央総合病院では廣瀨瑞紀院長が陣頭指揮をとり、心臓カテーテル治療など適切な医療を提供。循環器ホットラインも設置し、24時間365日、患者さまの救命に尽力しています。
※厚労省2020年人口動態調査

明理会中央総合病院 院長 廣瀨 瑞紀 医師

  • 日本心血管インターベンション治療学会専門医・施設代表医
  • 日本循環器学会 循環器専門医・指導医
  • 日本脈管学会 脈管専門医
  • 日本内科学会認定内科医・総合内科専門医・指導医

動脈硬化が招く虚血性心疾患

今日は心臓疾患の中でも代表的な「狭心症」と「心筋梗塞」についてお話を聞かせてください。どんな病気なのですか?

心臓は1分間におよそ5L、1日に7200Lもの血液を全身に送り続ける働き者の臓器です。その心臓の筋肉(心筋)に血液を届ける血管が「冠動脈」。大動脈から右冠動脈、左冠動脈前下行枝と左冠動脈回旋枝の3本に分かれ、さらに枝分かれして心臓を網目状に包みこんでいます。
この冠動脈が主に「動脈硬化」によって狭くなると、酸素と栄養が十分に届きません。胸痛、動悸、息切れといった症状があらわれます。これが「狭心症」です。
「心筋梗塞」は冠動脈の一部が塞がり、血流が止まって心筋が壊死してしまう疾患。命にかかわり、治療は一分一秒を争います。
この狭心症と心筋梗塞を総称して「冠動脈疾患」「虚血性心疾患」と呼ぶこともあります。

どちらも動脈硬化が最大の原因なのですね。なぜ動脈硬化は起こるのですか?

血管の一番内側には「血管内皮細胞」があり、血管を保護するNO(一酸化窒素)などの物質を放出しています。ところが血液中に悪玉コレステロール(LDL)が増えると、内皮細胞を傷つけ、血管の中膜との間に潜り込んで酸化してしまいます。そこへ異物を処理する貪食細胞マクロファージ(白血球)が駆けつけるのですが、酸化LDLが大量だと取り込みきれず、ふくれ上がって破裂します。その残骸がやがて粥状の「プラーク」となって分厚く溜まり、血管を内側から狭めていきます。
その上、血管の繊維に血中のカルシウムが沈着し、硬く「石灰化」する厄介なケースもみられます。血管の弾力性が失われ、文字通りの〝動脈硬化〞です。

メタボリック症候群と診断された方は要注意ですね。

高血圧、高血糖(糖尿病)、脂質異常症、加えて喫煙は冠動脈疾患の最大リスク要因です。

狭心症の方の動脈硬化が進行すると、血管が塞がって心筋梗塞を起こすのでしょうか?

そのように思われがちですが、実は違うのです。心筋梗塞は、血管にできたプラークの被膜が破れた時、それを修復しようと集まる血小板や血液凝固成分がネバネバの血の塊=「血栓」となって血管を塞ぎ、発症します。
軽度の狭心症でもプラークの被膜が薄ければ、いきなり破裂して急性心筋梗塞を起こし、突然死される例も少なくありません。

つまりプラークの被膜の強度が患者さまの明暗を分けるのですね?

はい。プラークが破れやすい狭心症は「不安定狭心症」の名称で分類され、急性心筋梗塞ともども「急性冠症候群」と位置付けられるようになりました。

時限爆弾を抱えているようなものですね。その一方、プラークが破れにくい狭心症も存在する?

「安定狭心症」あるいは「慢性冠症候群」と呼ばれます。病態も治療のアプローチも異なるので、医師はしっかり見極めなければなりません。
どちらも初期の自覚症状は、階段や坂道を上がったり、運動などした時に、酸素の供給不足で胸痛、息切れ、動悸の発作が起こる「労作性狭心症」です。発作は胸だけでなく、左肩、腕、顎、みぞおちに痛みを感じるケースがありますが、おおむね数十秒から数分で治まるでしょう。
患者さまは自分が安定狭心症なのか、不安定狭心症なのか区別がつきません。この段階でぜひ循環器の専門医療機関を受診してください。それが命を守ることにつながります。

病院ではどのような検査をするのでしょうか?

安定狭心症と不安定狭心症は問診で判断します。問診、聴診に始まり、心電図、運動負荷心電図、心臓の動きを見る心臓エコー、心筋のコンディションを判定する血液マーカー検査、立体画像で心臓を正確に捉える冠動脈造影CT、確定診断と治療方針決定には心臓カテーテル検査を行います。カテーテル治療が必要になった場合には、血管内部を観察する血管内超音波検査や光干渉断層法などで病変の性状を調べ最適な治療法を選択します。

心臓カテーテル治療が急性心筋梗塞を救命

どのような治療が行われるのでしょうか?

冠動脈疾患の主な治療には「薬物療法」、カテーテル治療の「経皮的冠動脈形成術(PCI: Percutaneous Coronary Intervention)」、外科手術の「冠動脈バイパス手術」の3つがあります。
安定狭心症は、発作を誘発する運動のレベルや、発作の頻度、持続時間、強度などが比較的安定しており、一般に薬物療法が第一選択肢です。発作を抑える硝酸薬(ニトログリセリンなど)、心臓の働きを安定させるβ遮断薬やカルシウム拮抗薬などが使われます。血栓産生を防ぐ抗血小板薬、コレステロールの値を下げる薬(スタチンなど)を用いて、病変の進行を管理することも大切です。
以前は冠動脈の狭窄があれば積極的にPCIを実施したのですが、薬剤が進化し、近年の成績はPCIと遜色ありません。
薬物療法で十分コントロールできず、症状や冠動脈狭窄の増悪が進む場合はPCIまたは冠動脈バイパス手術を検討します。

PCIとはどのような治療なのでしょうか?

代表的な心臓カテーテル治療です。当院では主に手首のやや上から橈骨動脈にカテーテルを挿入。冠動脈の狭窄部位まで専用の器具を送り込んで血管を広げ、血流を改善します。
器具は2タイプあり、1つはステント(金属メッシュの筒)を留置し、トンネル状に血管を内側から支えるもの。血管の平滑筋細胞は再生能力が高く、再狭窄しやすいため、ステントには細胞増殖を防ぐ薬剤が塗布されており「薬剤溶出性ステント」と呼ばれます。
もう1つはバルーンによる形成術。表面にエッジのあるバルーンで血管をしっかり広げ、次に薬剤溶出性バルーンで、血管内皮に薬をコーティングするものです。 
再狭窄した場合、ステントは簡単に取り外せません。ステントが入っていることで治療成績が悪くなる症例がありますので、当院では薬剤溶出性バルーンを選択する例が増えています。

PCIは、石灰化が進んでいても可能なのですか?

いえ、カチカチの血管はステントやバルーンを入れても、うまく広がりません。
当院では石灰化が進んだ病変では、ショックウェーブバルーンもしくはロータブレーターを使用して、血管が十分に拡がる状態にした上で、血管を内側から支える効果の高い薬剤溶出性ステント留置術を行います。ショックウェーブバルーンとは、専用バルーン内のエミッターから音圧波パルスを生じる機器。血管内の石灰化病変を選択的に粉砕し、しなやかに変性させます。ロータブレーターはさらに強度な石灰化病変を削るため、先端にダイヤモンドを装備した特殊なカテーテルドリルです。

冠動脈バイパス手術とは、どんな手術ですか?

冠動脈の狭窄部位の先に血液が届くよう、代用となる血管をつなぎ、迂回路=バイパスを作る手術です。血管は患者さま本人の心臓や胃の近くの血管、脚や腕の血管を用います。
狭窄範囲が広い、あるいは多数箇所ある、糖尿病や人工透析で冠動脈全体が脆弱化している、右冠動脈の入り口など再狭窄しやすい部位に病変があるといった方は、PCIより手術の適応といえるでしょう。ただ年齢や基礎疾患の有無、生活背景、ご本人の希望も考慮しなければなりません。当院では心臓血管外科とハートチームを組み、患者さまお一人おひとりの症例を十分検討し、納得いただいた上で治療法を決定します。

急性冠症候群では、どんな治療になるのでしょうか?

不安定狭心症の方は、次の発作が急性心筋梗塞に発展する可能性がありますから、可及的速やかなPCIもしくは冠動脈バイパス手術が推奨されます。

急性心筋梗塞で搬送された方はどのような治療になりますか?

すでに冠動脈が塞がり、心筋の壊死が始まっていますから、緊急対応可能なPCI一択です。
発症から12時間以内がゴールデンタイムとされますが、血液の再環流は早ければ早いほど予後良好です。胸痛が強く長引く、めまい、貧血、激しい動悸などがあれば一刻を争い、必ず設備の整った循環器内科を受診してください。
日本は諸外国に比べカテーテル治療の可能な医療機関が多く、アクセスも良いので、急性冠症候群の死亡率が低いという報告があります。PCIはもっとも命を救うことのできる医療行為なのです。

急性心筋梗塞は治療を受けないと助かりませんか?

冠動脈の狭窄部位によっては心筋の壊死が一部にとどまり、存命される方も数多くいらっしゃいます。発作の痛みをじっと我慢で乗り切ってしまうのですね。発症から1ヵ月以上たつと「陳旧性心筋梗塞」に分類。ただそこから治療をはじめても、心筋の壊死は回復せず、ポンプ機能は大幅に低下。無理な拍動で残った心筋もダメージを受け「慢性心不全」となるケースが多くなります。

やはり予後不良なのですね。

胸痛、息切れ、動悸を自覚したら、我慢せずにご相談ください。
当院は心臓疾患にとどまらず、患者さまの総合診療を心掛けています。例えばPCI実施後は一定期間抗血栓薬を服用する必要があり、出血傾向が高まります。そこでがんなど手術が必要な余病がないか、丁寧な検診を導入。糖尿病や慢性腎臓病、高血圧、脂質異常症などは各診療科と連携し、栄養管理や運動習慣のアドバイスも行ってきました。
患者さまが安心して治療に向かえるよう、生活全般を支援することが我々のモットーです。

ありがとうございました。

上: 健常な冠動脈
中: 酸化した悪玉コレステロールがプラークとなって内膜の内側に溜まり、血管を狭くしている
下: プラークの被膜が破れると、修復のため血小板などが凝集し血栓化。冠動脈を塞ぎ心筋梗塞を発症させる

心臓の血管
急性心筋梗塞のPCI症例

薬剤溶出性ステント留置の治療を受けた患者さまの冠動脈造影画像。病院到着時には冠動脈のうち左前下行枝が閉塞していたが(左画像)、治療後は再環流している

安定狭心症のPCI症例

薬剤溶出性バルーンの治療を受けた患者さまの冠動脈造影画像。
左冠動脈前下行枝中位部に高度狭窄が存在していたが、治療後狭窄は消失している

ショックウェーブバルーン

冠動脈の石灰化治療にもちいるショックウェーブバルーン。
カテーテル先端のエミッターから生じた音圧波パルスが石灰化した病変部を破砕する